寿司屋の親爺

護身法は、印袋に隠して、ン、ン、とできるのは相当修行を積んだ人で軽々にできるものではない。印と真言と観想からできており、私には、観想の中に身を置くぐらいの気持ちが必要に思えた。阿含宗では入信した人は等しく千座行を行う。入信して最初に教わるのが護身法である。

日々の千座行は護身法で始まり開経ゲ、般若心経、観音経普問品等を勤行し、他の宗派とは護身法一つでこのように違うのである。夏季伝法会で一番面白く熱心にやったのが密教占星術であった。

管長が書かれた本をなぞって占盤を四つ作る。

遁甲盤という。

・年盤

・月盤

・日盤

・時盤

暦等で見たことがあると思う八角形の図である。

暦の八角形は年盤である。便宜上か見やすくするためか四角形で習っている。時盤より月盤に掛け、日盤より年盤に掛け年盤より日盤に掛け、月盤より時盤に掛け、星の動きを観るのである。初めのころは本に書かれたことをなぞっていくのであるが、慣れてくると頭の中でできるようになる。

或る朝、朝ご飯を食べている私の前に家内が紙切れを置き、この人を観てと言う。

相手が誰かわからない。唯、生年月日の数字が書いてあるだけである。

「この人は火事に遭うてるで、何年くらい前のことやで」と言うと電話を取り、お父さんがこんなこと言ってると話している、掛けた先は家内の実家だった。今は国道に面して建っているが、昔は二百メートル程度坂道を上った所にあったとは聞いていた。便利がよいから移ったのだろう程度にしか考えていなかった。

電話の相手は家内の兄嫁さんである。田舎の百姓家は屋敷が広く、母屋と風呂便所は別に建てられており、兄嫁さんが風呂を沸かしていて目を離し、別の作業をして母屋も燃えてしまった。兄嫁さんは故意に燃やした訳でもないのに、古い話を穿りだしてと、暫く私と気まずくなったのは仕方がない。

他の人から相談を受けた。一人息子に縁談があり、どうすればいいと言うのである。占ってみるとどうも家が絶えそうである。私は返事に窮した。

家が絶えそう等言える訳がない。困った私は「此の娘は強い運を持ってくるよ、息子さんは左団扇みたいな暮らしになるよ。話はまだ次があって同時に家を潰す運も持ってくる」と言うと縁談が壊れてしまった。

私は悩むことになる。口先で人様の一生を左右して良いのだろうか。次に会ったとき面白い話をしてくれた。