第二章 希望

「ねえ、斉藤くんだったかしら。うちの高校目指すほどだから、塾にはもちろん通っているのでしょう?」

ロッドが左右に揺れるのを目で追いながら、ミヨが突然口を開いた。

「あ、はい。松本駅の近くの塾に通ってます。今度は明後日で、塾が終わるのはたぶん夜九時過ぎると思います」

「そう……明後日は私も予備校の講義があるわ。終わるのは同じくらいの時間かな。私も普段松本駅を利用するから、もしかしたらいっしょになるかもね」

「本当ですか?」

達也の言葉に、ミヨは足をピタリと止め、二つのダウジングロッドを片手に持ち替えた。

「そうだ、斉藤くん。受付で記念品のボールペンもらった?」

ミヨは制服の内ポケットに手をのばす。

「お手伝いを交代する時に、置いてくるのを忘れちゃってね。このペンでよければ君にあげる。まだ袋からだしてないし、講堂で配っているボールペンと同じものよ」

「え? いいんですか?」

達也は、ミヨに拾ってもらったハンカチを右手に握っていたことに気づき、形を崩さないようにポケットに入れると、ペンの入った袋を大切に受け取った。実花に聞いた通り、中央に校章が入り、赤いインクが透けて見えるプラスチック製だ。

「ここまで来れば迷うことはないわね。講堂はこの先よ。私、今度は別の場所でお手伝いがあるから失礼するわ。じゃあ、またね」

「はい。ありがとうございました」

ミヨは、一度もにこりとしないまま再びダウジングロッドを両手に持つと、反応が示す先へと去っていった。講堂へ戻った達也は、結花を見つけ隣のパイプ椅子に腰をかけた。

「もう、遅い。何してたのよ」

結花は頬を膨らませ怒っている。

「ごめん、ごめん。校舎の方に行ったらさ、同じ塾の知り合いにばったり会っちゃって」

「それで? ボールペンはちゃんともらってきた?」

「あ、う、うん」

達也が取り出したボールペンを見て、結花は不思議そうな表情になる。

「あれえ? 達也君のインク赤なんだね。私のは黒なのに」

結花は、受付でもらったペンを達也に見せる。

「ランダムで配ってるんじゃないか? 袋は同じだし、校章も同じところに入っているし、それに外側のプラスチックの部分も同じ透明だけど」

達也の言葉に納得がいかない様子の結花が、新たな疑問を抱く。

「おかしいなあ。去年、お姉ちゃんが説明会に参加してもらってきたペンも、インクは黒だったよ? 受付にあったのもみんな黒だったし」

「そうなんだ。じゃあ、僕の当たりってやつ?」

「え、何それ? ずるい。だったら私、そっちが欲しい。ちょうだい」

「え? だめだめ。ほら、そろそろ始まるみたいだよ、説明会」

「なんか誤魔化された感じ」

この日、何度目かの膨れっ面をした結花の機嫌は、説明会が終わっても直らなかった。

※本記事は、2012年5月刊行の書籍『アザユキ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。