「わたくしの名は紗久弥と申します。龍神(たつ)(もり)の里が当主、和清の末姫でございます。龍神様のお姿は里の聖殿と神殿に描かれており、毎日聖殿にお花を手向けています。そのおり貴方様のお姿を拝謁いたしておりました。本日、龍神様にお願いが在ってここに参りました。どうか願いをお聞き届けて下さいませ。でも……変ね? 聖殿に描かれてある龍神様の御身体は全身輝く黄金色で、角がとても大きく凛々しいお姿でしたのに……。ちょっとひ弱そうに小さく見えるのは気のせいかしら?」

 
 
 

青い龍は紗久弥姫をぎっと睨んだ。

「余は、大地が発する水の霊気を食べに天上界より降りて来ている水の龍である。絶えずつまらぬ諍いを起こし、互いの血で大地を汚す愚かな人間の願いなど聞く耳は持たぬ。即刻この場より立ち去れー」

紗久弥姫はその場に崩れる様にしゃがみ込むと、大声で泣き出した。

龍は身体を震わせて泣く紗久弥姫の周りを、まるで円を描く様に何度も回り、

「な、泣くな。よ、よしよし……」

となだめた。

紗久弥姫は涙を流しながら、しゃくり声で今までの事を話した。月が雲から出て、辺りが明るくなると、紗久弥姫の顔がはっきりと青い龍の目に映った。

「お前はとても可愛い顔をしている! 大人になるとさぞかし良き女になるであろう」

「えっ?」

「余は思った事を素直に言ったまでだ。お前は良き女になるとな!」

「私をお前や女など……あまりにも失礼ですわ。暗い森の中を抜け、あの細く長いつり橋を怖いのを必死で堪えて藁にも縋る覚悟で御願いをしに来たのに」

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『龍神伝説』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。