句材探し

1.一番良いのは、吟行に行って自然を見つめて作ることだが、年金生活が続くと、ヘソクリがみるみる減って、吟行にいく金銭的余裕がなくなる。新型コロナウイルスの外出自粛がそれに追い打ちをかける。

そこで私は、俳句歳時記を手にする。

ぱらぱらとめくって、適当に三つの季語を選び、句を作ってみる。それを私は『一人題詠』と呼んでいる。歳時記の説明と例句から、その季語のイメージをつかんだら、思いついたままに句を作る。

まず目をつぶって、季語のシーンを思い浮かべる。これまでの経験、見聞きしたこと、さらに自分の記憶になければ、他の人(時には動物にも)になったつもりで考える。このイメージ展開にはゆっくり時間をかける。灰色の脳細胞がうっすらピンクに染まるほど一生懸命考える。老化した脳に良い刺激になるそうだ。私の場合、発想に窮したら、飼い猫や犬を呼び出すことが多い。

最終的な推敲は投句前にすることにして、とりあえず出来栄えは気にせず一句に仕立てあげる。できるだけたくさん作る努力をする。

例えば、(おこ)()(夏、芝居の舞台のミニチュアを作り、切り抜き絵の人物や風景などを立てた)、扇風機、木苺(きいちご)を、一人題詠の季語に選んだとしよう。

起し絵やゆらり揺れたる由良之助

扇風機前に大猫腹見せて

木苺に頬ふくらませ秩父の子

こんな調子で肩に力を入れず気楽に作ってみる。歳時記に、珍しい季語の傍題(ぼうだい)(季語のバリエーション)を見つけて、それを使う句に挑戦することもある。冬の季語である聖胎祭の傍題に、『童貞(どうてい)聖マリア無原罪(むげんざい)御孕(おんやど)りの祝日』という長いのがあり、

童貞聖マリア無原罪の御孕りの祝日スパークリングワイン

と詠んでみた。三十五音で、私のこれまでで最長の句である。

なおこの一人題詠で作った句は、使った季語の季節(例えば「冬」)を付記して、俳句手帳に記載して、その季節の句会用に貯めておく。

※本記事は、2021年5月刊行の書籍『春風や俳句神様降りてきて』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。