林太郎は、顔を上げた。

「や、わたしとしたことが……」麻衣は、微笑みながら歩いていた。

「あそこに、何か遊び場があるわ。行ってみましょうか?」

「そうですね」

歩いて、小屋のようなところで、人が集まっているのを後ろから覗く。そこは見せ物のようだった。木戸銭を払い中に入って行く。始めの場面は、男と女の人形が、抱き合っている。そこを通り過ぎて行くと、今度は男の人形が女の人形の胸をはだけさせているところだった。麻衣は素知らぬ顔で歩いていたが、林太郎は顔をそむけるようにしている。

「ここは、早く出ましょうか?」

と、喉に何か絡まった言い方をした。

「ええ、でも……」

と麻衣は言う。案外面白いのである。ふむ、男が何で女の肌を見たいのだろう。麻衣だったら、ここは女が男の肌をめくるようにしたい。もう少し歩くと、今度は、男が女の肌を晒して、おっぱいに口づけしていた。もう林太郎は、顔が真っ赤である。

「早く出ましょう」

「ええ……」

ところが一転次の場面は、本当の人間が出てきたのである。

男が女の着物を引き裂いて、肌もあらわなその胸に抱きついているのだった。人形でないことは、その男が動いているので分かる。女もいやいやするようにもがいている。それに女は、さる轡を噛ませられている。演技だろうか? それとも本当に嫌なのだろうか? 麻衣はじっと見つめた。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『紅葵』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。