話が少しそれましたが、また自律神経に戻ります。若いときならば、起立、歩行、走るなどという動作は無意識で行われ、何でもない日常行動です。

だが八十歳以上になると、これを意識するようになります。

寝ている人が立ち上がるということは、自律神経から見ると、副交感神経から交感神経へのスイッチの切り替えに当たります。その血圧調整がうまくいかないと、立つ時にふらついて倒れることがあります。また入浴時、浴槽につかって血管が開いているときに、急に立ち上がると、意識を失うこともあります。

その顕著な例が、宇宙飛行士です。スペースシャトルの中では無重力です。体の上下がないので、臥位でも立位でも体内の血液分布は同じです。起立、運動などの重力効果はなく、地球を九十分で一周します。体内のカルシウムは減少して骨粗鬆症となり、筋肉量も減ります。要するに、老化が速く進行するのです。

それが地上に戻ると、途端に重力に曝されますから立つことができなくなります。紙一枚が重く感じられるのです。我々が地球上に生きていくためには、酸素の供給と重力の下にあるということが不可欠ですが、重力の感じというものは意識されていません。宇宙飛行士がそれを教えてくれるのです。

幸いなことに、リハビリテーションによって、宇宙飛行士は次第に重力に順応し、老化現象も消失します。この宇宙飛行士と対比されるのが、高齢者が長期にわたって寝たきりとなり、持続して臥位をとることです。それは重力の効果を減らし、老化を促進します。立位をとる際に安定が維持できず、ふらふらします。

長期臥位となっても、頭位を七十度に起こして、重力効果を確保させるようにつとめることが重要なのです。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『健康長寿の道を歩んで』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。