出会いは、YOUR HEARTだった。YOUR HEARTは、フェルメールの「小路」を想いおこさせるような佇まいのカフェで、望風は、週三回くらいの頻度で通っている。定休日もなく、朝6:30から夜11:30まで開店している。放課後や、一息つきたいとき、おなかがすいたとき、女子会、勉強がはかどらないとき、誰かに話を聞いてほしいとき……。

アットホームなスタッフや雰囲気やおいしいメニューの数々に囲まれて、心がすーっと緩やかに一掃される。望風にとっては、そんなカフェだった。YOUR HEARTですれちがったり、くしゃくしゃの笑顔を見たり、スタッフを笑わせたり、新聞を読んだり、電話をしたりしているところを目にする一人の男性がいる。人柄を少し知っているような感覚だった。

彼に対して思い込みに近い好感を持っていた。なぜよく知りもしない人のことが気になってしまうのかわからなかったが、ちょっとしたしぐさや行動を見て、好感を心に重ねてきたのだと思う。人想いで、他人からも好かれて、明るくて、素直? 仕事が出来そうで、おしゃべりや人づきあいが得意そうで……。そんな人柄に惹かれはじめていた。いつもスーツ姿で、歳はいくつなのかなあと気になっていた。

その日は思いつきで、YOUR HEARTへ向かった。向かう途中でぽつ、ぽつ……と雨が降り出した。朝から用意しておいた折りたたみ傘をバッグから取り出して広げた。買ったばかりのお気に入りの折りたたみ傘は、鮮やかな青をベースに小さい白とピンクのハートが数個ずつランダムに散っていて、大好きな青色に控えめなハートの柄が気に入っていた。心地いい気分でゆっくり歩いた。

YOUR HEARTに着いたら、ファッション雑誌を読もうとか、今日は、冷たくて甘めの飲み物にしようとか、二時間もしたら帰って、今夜は早く寝ようかなとか、明日は確か四人みんなで集まるんだったなーとか考えながら、小雨の中を歩いた。空がだんだん暗くなってきて、雨は、降り続きそうだった。

YOUR HEARTが見えた。傘に落ちる雨粒の音のせいなのか、少し自分の鼓動を感じた。雨の向こうにかすむようにライトが灯っているのが見える。