バキュームカーは臭くない!

藤倉産業の駐車場には、パッカー車(ゴミ収集車)、平ボディトラック、深ボディトラック、バキュームカーなど合わせて十二台の車両が、横四列、縦三列にギリギリに間隔を詰めて駐めてある。

その日は運悪く、バキュームカーが、出入口から見て一番奥の、最後列左端のブロック塀ギリギリに止めてあった。

健一は、それを出庫させるために、まず最前列の車両を洗車場に移動させて一台分のスペースを空けて、後はパズルを解くように順番に各車両を動かして、バキュームカーを出庫口まで移動させた。そして、久しぶりにヘッドライトを点けて、薄暗くなった道路に走り出した。

健一が盆踊り会場に着くと、そこはさまざまな色の浴衣を着て手には団扇を持って、やぐら太鼓や篠笛の音に合わせて輪になって踊る人たちや、屋台で買った綿あめや真っ赤な焼きリンゴを食べながら歩いているカップル、風船ヨーヨー釣りや金魚すくいをして、はしゃいでいる子どもたちなどで賑わっていた。

健一はその中を安協の人に誘導されながら、仮設トイレが設置されている、会場の一番奥の隅までバキュームカーを走らせて駐めた。そこには四基の仮設トイレが、並べて設置されていた。

健一はホースリールのクラッチのロックを外して、吸引用ホースをトイレの後ろ側にある、汲み取り口まで引いていった。

そして、蓋を開けて作業を始めると、そばにいた子どもたちが、

「何してるの? スゴイ! カッコイイ!」

などと言って集まってきたので、かわいいなと思いながら、ニッコリとして、

「危ないから、そばに寄らないでね」

と言うと、別の子どもが健一の顔をのぞき込みながら、

「おじちゃん、なんでそんな変な顔してるの。ねえ、ねえどうして?」