そして、いよいよ審査結果の発表。三年四組の「インテラパックス」は見事、最高得点で「最優秀賞」を受賞した。毎朝と放課後の厳しい練習が、ようやく報われたのだ。女子の何人かは泣いていた。男子も「やった、やった」とはしゃぎまくり、私も嬉しくてたまらなかった。

「やはり、学級担任はいいものだ」

心からそう思った。

そして、それから三年後、私は再び合唱曲「インテラパックス」を聴いた。この年、その難曲を選択したのは、私が国語の授業を教えていた三年三組だった。

コンクールの一か月前、私は学年主任として、そのクラスの合唱を聴いて、あまりのひどさにあきれてしまった。まず何よりも、クラスの二分の一程度の人数しか本気で歌っていない。特に男子は、「蚊の鳴くような声」しか出していないのだ。

私は、自分の国語の授業時間の一部を調整して、三年三組の生徒に、三年前の菊田さんの話をした。

幸いにも、男子生徒の中に「そのお姉さん、知ってますよ。小学生の頃、怒られたことがあるから」という声があり、身近で真実味のある話として伝わったようだった。

その翌日から、三年三組は屋外へ出て練習を始めた。男女とも、リーダーの意識に気合が入り、歌声がどんどん大きくなってきた。そして、その勢いを保ったまま「最優秀賞」を受賞。まさに、「菊田ケイさん」の話の効果は、大きかったようだった。コンクール終了後、当時の三年三組の学級委員の男子が、私に話しに来た。

「先生、ありがとう。あのケイさんの話を聞いてから、このクラスは、再スタートを切ったのです」

その後、数日して、久しぶりに中学校を訪ねてきたケイに、その三年三組の話をした。

「やだなあ、先生、恥ずかしいから、そんな話はやめてください」

ケイは本当に恥ずかしそうに、それでいて少しだけ誇らしそうな表情で笑っていた。今年も校内に歌声が響きわたる季節がやって来る。それぞれのクラスが、それぞれのリーダーたちの下、体育祭で培った団結力を生かして、すばらしい合唱を築き上げてくれることを期待してやまない。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『冬日可愛』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。