12月

十二月に入ってすぐの試験期間に向けて、十一月の最終週は部活がオフになる。せめてラストの日はグラウンドで動きたかったのだが、この時期には珍しいほどの大雨になった。仕方なく校舎内をランニングし、ひと汗かいてから筋トレメニューということにした。屋外からはごうごうという雨風の音が響く。

もう寒くなって、飲料水の補給も頻繁ではないし、海老沼さんと末広さんは、少し油断するとぐちゃぐちゃになってしまう部室の整理にいそしんでいた。面倒になると「まぁいっか」というつぶやきをもらすのが海老沼さんで、それに無言で首を横に振るのが末広さんなのだが。

「先生、消耗品の予算、まだありますか?」

こういう堅実な問いを発するのは末広さんだ。海老沼さんは、不足品があると自腹で立て替えて、後で言い出すのだ。

「足りなかったんで、これ買っちゃいました」

簡便な消毒薬やら脱脂綿、テーピングテープ、コールドスプレーや絆創膏や洗剤、それに彼女たちが切実に求めるのが消臭剤なのだ。何もしなければ、部室には様々な臭いが充満する。いくら寒くなった季節とはいえ、練習後はスパイクを脱いだ十五人分の蒸れた足の臭いが部室に漂うのだから、彼女たちは消臭剤を切らさない。

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『楕円球 この胸に抱いて  大磯東高校ラグビー部誌』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。