「ありがとうございます。よく分かりました。でも、マルコス大統領は最初の頃はいいこともしていたんですね」

「最初は政策がうまく運んだんですよ。マルコスは頭脳明晰だし弁舌も切れるし行動力もあるしで、一流政治家の資質を全て持っていました。だから若い頃はアジアのケネディーとまで言われてたんですよ。英雄色を好むじゃないけど、相当な女好きらしいですけどね。でも一度権力を持っちゃうと失いたくなくなるんでしょうね。奥さんのイメルダがこれまたすごい怪物だしね」

「フィリピン文化センターを造った人ですよね」

「確かにあれは立派な建物だけど、この貧しい国に似合わない物ですよね。諸外国に対しての見栄で造ったとしか言いようがない。あの文化センターからフィリピンプラザホテルまでの土地は埋め立て地なんで、ものすごくお金がかかっていますよ。あの一帯はロハス・ブルバードを走る外国人に見せるための物ですね、フィリピンはこんなに進んでいるんだぞーって。一本裏の通りに入ればスラム街なのにね。

大きな声では言えないですけど、結局マルコスとイメルダは夫婦でこの国を食い物にしているんです。反政府勢力を取り締まるって名目で戒厳令を出したけど、実際に取り締まったのは反マルコス勢力なんですよ。政敵をみんな捕まえちゃって反対する人がいなくなったから、国会では自分の政策が何でも通る。

そして、自分やイメルダの親族を政府や銀行の要職につけたから、お金も簡単に引っぱり出せて使い放題。イメルダは外遊する度に、スイスの銀行に大金を預けているらしいし、帰りにはジャンボ機一杯分のブランド品の買い物をしてくる。軍の幹部もほとんどマルコス派だから誰も逆らえないんですよ」

「大統領夫妻はこの国を完全に私物化してるんですね。よく言われていますが、今のフィリピンって正にマルコス王朝なんですね。イメルダ夫人についても教えてくれますか」

「いいですよ」

平瀬のレクチャーは続く。

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『サンパギータの残り香』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。