十一月〜三月

とりあえず翌週の金曜日に、いつものカフェに参考書や教科書をいくつか持ってきてもらった。家庭教師をしていた頃の記憶と感覚を思い出し、まずはゆるい学習計画をたてることにした。ペースがゆるやかという意味ではなく、進行自体があまり厳密ではない、という意味だ。

場所はあえて他のところにする理由が思いつかなかったので、俺もすっかり通い慣れたこの北欧テイストのカフェで、引き続き行うことになった。

基本的に毎週金曜日の午後七時頃からにしたが、俺も彼女も毎週は来られない。使用するテキストを決めた後は、週単位ではなく、月単位で進める範囲を決めた。基本的に自習で進めてもらい、二人が会えた時に進捗を確認したり、分からないところを質問してもらう、という融通がきく進め方にした。

ペースについて言えば、若干厳しめに設定した。経験上、「ここまでなら問題なくできるだろう」というところより少しだけハードルを上げる方が、伸びることが多いからだ。

こうやって始まった家庭教師(もしくはカフェ教師?)は、思っていたよりはるかに順調に進んだ。勉強の合間に雑談もするようになったし、時折笑顔も見せてくれるようになった。ヒカルが抱えている悩みは明らかにはならなかったが、家族とうまくいっていないのは分かった。特に父親との関係がこじれているようだ。何かの折に、

「父は『普通』が好きな人なので……」

と突き放すように言った時の、暗い表情が印象に残っている。俺は、ヒカルのお父さんにはお父さんなりの考えがあるのだとは思っていたが、自分の経験に照らし合わせると、こういう時に上から正論を言われることほど嫌なことはない。