基の指導は微にいり細にもこだわって、フットポジションのスパイク半足分のズレにまで修正を試みる。体重もない中で、いかに負けないかを追求してきた高校時代の体験からなのだろう。最大のポイントは、首の使い方だったりもする。二〇キロ以上のビハインドを円城寺くんに持っている西崎くんは、むしろ小さくなって対抗するのだ。低く、低く。

「きみたちには、体重もスキルもないんだから、低さとか、結束とか、我慢とかで闘わなけりゃいけないんだぞ」

それは、基が高校時代の自分に言い聞かせてきたことなのかもしれない。

ラインアウトの駆け引きは、相手ティームとの騙し合いの要素だってある。でも、このサインなら絶対、っていうプレーがなくてはダメなんだ、と基は徹底的な反復練習を課したりもする。

大前くんは、意外に堅実なジャンプ力を見せてラインアウトの核になれそうな気がしてきた。身長はあっても、保谷くんは手先が不器用だし、寺島くんは、実は視力が弱い。寺島くんは、教室では眼鏡が欠かせないのだが、部活中には眼鏡は使えない。それは仕方ないし、スポーツ用のコンタクトレンズだってあるよ、と紹介もしたのだけれど、彼は眼の中に何かを入れるの、コワいんです、と気弱に微笑むのだ。もう、恐怖心のかけらも見せずにタックル練習もできるようになったのに。

緒方さんにしても基にしても、体感としてラグビーを経験してきたからこそ教えられることがある。それは佑子にはないものなのだ。

「でもな、オレがもし今、大磯東の先生だったとしても、この状況は作れていなかったと思うよ。これは、ユーコちゃんがいてこそ、なんだ」

基は、秋空を見上げながら言う。こっちを見ないのは、照れ隠しか。自分は、海老沼さんや末広さんと、一緒に水を持ってグラウンドを右往左往してるだけなのに。

「でも彼女たちに、右往左往してるだけ、って言えないだろ。ここにみんながいる。それが大切なことなんだ」

基の、常ならぬ称賛の言葉と、受け止めておこう。

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『楕円球 この胸に抱いて  大磯東高校ラグビー部誌』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。