ハンブルク

風力発電シェア世界一

ハンブルク中央駅は鉄骨アーチの豪奢な建物である。発車した列車は左へ大きくカーブして北西方の北ドイツ平原へ出て疾駆していく。

途中白いローターの発電風車が点々と立っている。北ドイツは平坦な土地がどこまでも続き、風の強い日が多いので、風力発電にぴったりだ。何よりのクリーンエネルギーである。ドイツの全風力発電量は一〇九〇万キロワットで、三七%という世界一のシェアを占めている(二〇〇二年)。

ユトレヒト半島の首根っこを横断する形で列車はリューベックを経て、支線に入って間もなく終点トラベミュンデに着いた。駅から五分ほど歩くと、白砂のビーチに出る。籘製のビーチチェアが整然と並んでいるのは面白い光景だが、この涼しさで誰も坐っていないのでむしろ不気味である。

右へ少し行くと泳いでいる人も少しいて、その向こうには海水を引き込んだ運河があり大きな貸客船が入ってきた。この運河の対岸は旧東ドイツであることを、後から知った。とにかく想像どおり暗く寂しいバルト海を見て幻想的な気分になった。

ハンブルクへ帰る途中ハンザ同盟の女王と呼ばれたリューベックへ立ち寄った。この街のシンボルで世界遺産指定のホルステン門が修理中なのが残念だったが、リューベックの生んだ二十世紀ドイツ最高の文学者トーマス・マン(一八七五~一九五五)ゆかりのブッデンブロークハウスを見て満足した。

マンの小説は難解だが、短編小説集や『トニオ・クレーゲル』、映画にもなった『ベニスに死す』程度なら愛読した。ドイツ最高の知性と感じた。

リューベックはもともと海産物の取引場として発展し、八〇キロ南のリューネブルクで産する塩を運んできて輸出した。今は人口二二万の静かな古都である。