異様な人物と出会う

その日も、姪と母が泣きながら姪の家の近くまで帰ってきたとき、異様な風体をした人に出会った。四国では遍路さんは珍しくない。

遍路さんの装いではない。行者の装束ともいえないような人が前からやってくる。関わりたくないので会釈だけして通り過ぎようとすると前に立ちはだかられた。

「四国は広かろう、四国中歩いても、あんたの病を治せるのは儂しかおらんかもしれんぞ、儂の家は少々遠いけど通うてみるかい」静かな口調で話しかけてきた。

母と姪は驚き半分不審半分で聞いたが、もう行く所はなかった。住まいまでの道順を教えてもらい、通うことにした。

後日訪ねてくとバスは通っていない、山の分校までタクシーで行き、そこから細い急な山道を登って行かなければならない。

やっと辿り着いた所は石垣の上に立つ小さな住まいで、庭といっても幅六尺ほどだろうか、庭に面して二尺ほどの濡れ縁があり障子が閉まっている。

おとないの声を掛けると屋外にいたのか家の横から見覚えのある人が現れ、挨拶を済ませ母と縁側に腰掛けてしばし世間話をするも姪は二人の前で無言棒立ちのまま身じろぎもしない。静かに障子が開いて内から夫人が招いてくれると逆にあとずさりする。狭い庭である。後ろは岸、母と主人が両手を引いて部屋に引き入れようとするも一歩も動かない。

娘っ子の力とは思えない力が働くことをよく知っている夫婦は母に手を放すように言い説得を始めた。部屋の中から夫人が

「どうして中に入らないんだい」

「怖い、怖い」

「何が怖いんだい」

「あの虎がうちを睨んで目が光っている」

三尺ほどの木彫りの虎が置いてある。

「この虎は長いこと患った人がすっかり良くなったからとお礼に置いて行った物や、木の彫り物で噛みついたりしないよ」といった具合に一つ一つ説明し恐怖心を取り除き時間をかけて部屋に入れるようにしてくれる。

夫婦は不動明王を祀っていた。近所の人はお不動さんと呼んでいた。

※本記事は、2021年8月刊行の書籍『市井の片隅で』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。