「あれは関係ないらしいです。タイとフィリピンの候補地調査は同時進行だったらしいんですけど、フィリピンのコンサルタントが胡散臭かったそうですよ。間に入ってがっぽり儲けようとしているのが見え見えだったらしいですよ」

この国ならありそうだと正嗣は思った。平瀬は話し続ける。

「フィリピンは最近おかしいね。上も下もみんな隙のありそうな人から巻き上げようとする。最近来たお客さんがね、税関の係員の質が悪過ぎるって言っていましてね。わざとゆっくりと荷物検査をするらしいんですよ」

「暗にチップでも要求しているんですか」

「その通り。チップを出したら早く済ませてやるよ、ってことをアピールしているんでしょうね。最近はなくなったと思っていたんですけど、日本の旅行会社がスポイルしたんですよ」

「どういうことですか」

「四、五年前ですかね、団体が多かった頃、税関の検査テーブルに長蛇の列ができるじゃないですか。一人一人検査されたらすごく時間がかかるんで、添乗員がこれ三〇人分ねとか言って三〇ドル渡す。そうすると、そのお客さんたちだけノーチェックのフリーパス。ちんたらチェックされている他のお客さんたちは怒り出す。それでいつの間にか日本の団体ツアーの添乗員が税関でチップを渡すことが習慣化したんですよ」

「へぇ、でもそんなことが税関の上の人たちに分かっちゃったらまずいですよね」

「いや、ちゃんと上の人たちにも分け前が行くようにできているんだ。でも、こんなことじゃいけないと、旅行会社同士の取り決めでチップを渡さないようにしたんです」

「それでよくなったのですか」

「いや、当て付けに日本人以外の客をスムーズに通し、日本人に時間をかけるようになる。だから、旅行会社同士の協定を破り、抜け駆けでチップを渡す(やから)が出てくる」

「根が深そうな問題ですね」

「あっ、それでゆっくり荷物を調べられたさっきのお客さんの話なんですけどね、係員が荷物の中からヘッドホンステレオを見つけ出して"This is for me?"って聞いてきたらしいんですよ。そのお客さん外に出てくるなりカンカンに怒っちゃって、あの税関何とかしろよって言うんですよ。そう言われてもね」

「そう言われて、あげちゃうお客さんもいるんですかね」

「どうだろうね。いるかもね。色んな人がいるから。言った者勝ち、やった者勝ちって風潮が昔からこの国にはあるんで。フィリピン政府も同じように、言い方はもっとスマートなんだろうけど、"This is for the Philippines?"って感じで、世界中から金借りまくってますよね」

「最近新聞によく載っていますけど、日本からの円借款もすごい額ですよね」

「インフラ整備とかまともに使われればいいんだけど、二〇パーセントくらいマルコス大統領一派のポケットに消えていっているって噂ですよ」

「本当ですか。ひどい話ですね。でも、マルコス大統領ってどんな人なんですか」

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『サンパギータの残り香』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。