「わかば」の担任として最も思い出に残っているのは、毎年、秋の文化祭で演じられる「わかば劇」だ。舞台の上で演技をする生徒と、マイクに向かって台詞を言う生徒を別にした簡単な寸劇だったが、発表に到るまでに、数多くの練習を繰り返し、「わかば」の生徒一人一人の気持ちにも大変熱のこもった劇になった。

最初の年に演じた題目は、おなじみの「大きなかぶ」だった。ただし、私自身が台本を書き、もともとのストーリーを大幅に改編した。

老夫婦が大きなかぶを見つけて、孫娘と三人で引き抜こうとするまでは同じなのだが、孫娘が応援のために最初に呼んだのは、「の○太くん」だった。の○太くんは、ド○えもんに応援を頼むのだが、ド○えもんがポケットから出したのはタ○コプター。それを頭に付けたの○太くんは、舞台を大きく回って飛ぶように去ってしまうのだ。ド○えもんは……というと、「ど○でもドア」を立てかけて、その中に入り、姿を消してしまう。

「これでは何の役にも立たない」と嘆いて、おばあさんが呼んだのは、「アン○ンマン」だった。ところが、大きなかぶに立ち向かおうとしたアン○ンマンは、突然転んでしまい、「顔が汚れて力が出ない」と言って、泣きながら去って行ってしまう。

「こうなったら、あの人を呼ぼう」と、次におじいさんが呼んだのは、なんと「ウル○ラマン」だった。ところが、あろうことか、ウル○ラマンはス○シウム光線の構えとともに、投影されたおじいさんたちの家を破壊してしまう。文句を言うおじいさんの前で頭を抱えたウル○ラマンは、カラータイマーの音とともに走り去ってしまうのだ。

そこで、おばあさんがおじいさんに向かって、こう語り出す。

「おじいさん、私たちは、少し考え違いをしていたんじゃないでしょうか」

「そうだね、おばあさん。自分たちですぐにあきらめてしまって、人にばかり頼ってしまった」

とおじいさん。

「もう一度三人で引っ張ってみましょう」

と孫娘。

そこで、三人がもう一度大きなかぶを引き抜こうとしたところで、先に登場したド○えもんやの○太くん、アン○ンマン、ウル○ラマンが再び現れ、三人を手伝おうとする。

その段階で、私は、ひとつの「サクラ」を準備しておいた。あらかじめ、自分が顧問を務めるテニス部員たちに、「おれたちも手伝うぞ」と叫んで舞台に上って来るように頼んでおいたのだ。テニス部員十名くらいが次々に舞台に駆け上り、大きなかぶにつながるロープを引こうとする。ここまでは、私の台本通りだった。

しかしその後、予想外の展開が起こった。全く予定外の生徒が二十名以上、大きなかぶのロープを引っ張るために、舞台に上って来てしまったのだ。合計四十人以上の力に、大きなかぶを固定していた金具は、もろくも壊れて、あっという間に大きなかぶは抜けてしまった。

台本では、登場人物たちだけが、「やったー、やったー」と万歳しながら喜ぶことになっていたのだが、舞台の上は、四十人以上の生徒が、「やったー、やったー」の大合唱となった。舞台に上ってきた生徒たちは、その後すぐに降りて自分の席に戻ったのだが、土壇場に来て、自分の書いたストーリーが壊されてしまった私は、しばらく唖然としたままだった。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『冬日可愛』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。