第2章 解釈

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プロジェクトが始まってから1年後、4月25日。完成したハラール食品の記者発表会が行われた。「なんで僕が出席しないといけないんですか?」と強く主張してみたが、「ケントくん。晴れ舞台よ。トクホであり、かつハラール基準を満たした商品なんて今までなかったんだから。これぐらいしないと。ビッグチャンスよ。がんばりましょ」と言う由美に押し切られ、ケントも壇上のテーブルのところに座っていた。

新商品のプレスリリースをすると、驚くほど反応があった。これまでは食品業界誌くらいしか反応がなかった。また記事になっても小さなものだった。開発部長とたまたま近くにいた女性社員が商品を手に持つ写真が小さく載る程度だった。

今回は違った。「オリンピックに関連する商品だ」と、多くの記者が取材を申し込んできた。個別の対応が難しく、記者会見で一度にまとめて対応することになった。会見会場では、まず由美が概要を説明した。

「トクホに関してはすでに多くの方がご存知かと思いますが、ハラールとは何か、どのような基準があるのか、それらをご存知の方は多くないはずです。そこで本日は商品のキーとなるハラール基準について、それをどうやってクリアしたのかを担当リーダーから説明させます。では、お願いします」

由美は軽く頭を下げてから椅子に座った。そしてこちらを見た。ケントは立ち上がり一礼したあと、ハラール基準について説明した。イスラーム教の基礎から丁寧に説明した。

そして質疑応答の時間になった。一番前の席にいた記者が手を挙げた。

「話を聞いているとハラールは、トクホと違ってかなり曖昧というかグレーというかわかりにくい感じがしたのですが、今回の新商品はそのハラール基準をすべてクリアしているということですか?」
「もちろんです。ですから本日、このように発表させていただきました」
「ですが、製造ラインを一般の食品とは別に設置しないといけないとか、運送するトラックもハラール用に用意しないといけないとか、細かな決まりがありますよね?」と記者が言った。

「そうですね。そういう全てをクリアしたのがハラール食品です」
「使用できる原材料にも細かな基準があると思うのですが?」と同じ記者がしつこく質問した。

「当然、それら原材料も適切なものを使っています。よく聞かれるのはゼラチンですね。豚のコラーゲンが原料です。これはもちろん使っていません。あと気をつけるのは調味剤です。アルコール類が入り込む可能性があります。しょう油など、発酵させてつくるものです。そういった副原料は排除しています」
「ということは主原料だけでなく副原料そのもの、さらにはそれらの製造工程全てにおいてアルコール、豚や豚関連物質の混入や接触はないわけですね」

隣にいた由美が立ち上がり「そのとおりです」とはっきりと強い口調で言った。そして続けて言った。

「いかがでしょう。東京オリンピックでは世界から観光客が日本に来ます。世界の約3分の2がイスラーム教徒だと言われています。そのイスラーム教徒の約80%が日本に近い国、マレーシアやインドネシアです。一方でそれらの国々では肥満や肥満予備群が急減に増加しています。トクホであり、さらにハラールな我が社のこの新商品が世界中で高評価を得るものと確信しています」

会場から大きな拍手が起こり、記者会見は終了した。

※本記事は、2019年12月刊行の書籍『きみのハラール、ぼくのハラール』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。