「えっ、知りませんでした。サイドビジネスもされていたんですか」

気に入っていた店のオーナーが平瀬だったことに驚きもあったが、これからはあまり来ない方がいいかなーと微妙な気持ちになる。平瀬が病気持ちなので、正嗣は彼にかかわることを何気に避けていた。

「旅行業はオンとオフの差が激しくってね。だから、こういう商売で日銭を稼いでないと、やっていけないんですよ」

「今日はそうでもないみたいですけど、平日のお昼はお客さんでいっぱいですよね」

「日曜日は家族サービスがあるからね。日曜に来られるのは独身の人だけでしょう」

「確かにそうですね。店の管理は誰がしているのですか」

「これにやらせています」

と言って、平瀬は小指を立てた。

「大きな声じゃ言えないんですけど、僕、病気なんですよ。昨日は七転八倒の苦しみで大変でした」

正嗣はいつかの畦上の話を思い出した。しかし正嗣の方から病名は切り出せない。

「実は淋病なんです。もう五、六年になりますかね」

畦上が言っていた通りだ。しかも自分からさらっと話し始めた。この人には恥ずかしいという感覚がないのだろうか。でも、このシチュエーションでは平瀬の話を聞いてやるしかない。

「淋病って、注射二本くらい打てば治るんじゃないですか」

「ええ。確かに普通は抗生物質の注射を打てば治るんだけど、僕の場合淋菌に抵抗力が付いちゃってさ」

「お酒ですか」

「そう。僕、お酒は二日と空けられないの。お酒飲んじゃうと抗生物質が効かないんだ」

体とお酒とどちらが大事なのかと正嗣は問い質したかったが、この人の答えはすでに見えているので止めた。

「最初にしっかり治しておけばよかったんだろうけど、ついついマビニのネオンサインに誘われちゃってね」

「痛くないんですか」

「最初の頃はね。おしっこする時刺すような痛みが走ったけど、今はほとんど痛くなくなった。でも、時々膿でパンツが汚れるのよ。それが嫌でね。だからね、そういう時にね、尿道を掃除しに行くの」

完全に平瀬のペースだ。この人は淋病の話を人に聞かせ楽しんでいるのだろうか。聞かされる人の身にもなって欲しい。畦上もこんな感じで話を聞かされたのだろう。