新しい車を買った矢先の交通事故

二十歳を過ぎたころ二台目の車を買った。当時の給料一年半分ほどの値段である。明日の不安などまったくなかった。

盆休みに田舎へ帰ると従兄が来ていた。従兄といっても年はずいぶん離れていて、私と同い年の長女と妹二人の三人の子供がいる。私は親戚中でもずいぶん遅く生まれてきたらしい。

従兄は私を見ると、「大阪で大工をしとんやってなあ、大阪はええかい」と、聞いてきたので「ええも悪いも大阪しか知らんのやから、今居る所が一番や思うてます」それだけ答え、それ以外の会話はなかった。田舎で、来年の盆は舞鶴からフェリーで青森の恐山へ行こうと思っていると家族に言っておいた。

仕事を終えての帰り道、ほとんどの車がライトをつけるころ、国道を越える跨道橋の終わった所で前の車が止まってしまった。前の車の運転手は左側ばかりみている。どうやら側道を越えて細い道に行きたそうだ。側道は切れ目なく車が来る。左折してはいけない場所ではないか。私は右側に移行したいが切れ目なく車が来て移行できない。

そのうちバックミラーに明るく光が映りぶつけられると思いブレーキを踏みサイドブレーキを引いて体をねじって後ろを見たときノーブレーキでぶつかってきた。大きな音がすると前の車は真っ直ぐ行ってしまった。玉突きにならなくて良かったと思った。

助手席で背もたれを倒して寝ていた弟弟子が、「どうしたん」と言いながら背もたれを起こした。「どうしたやない、ぶつけられたんや」

後ろの車の運転手の所へ行くとハンドルを握ったまま降りようとはしない。少し先の他の車の邪魔にならない所まで行くからついて来るように言い車を動かした。

公衆電話を探し事故が起こったことを警察に告げると、小一時間たってから現場検証の車がやってきて、跨道橋の一番高い所からポールを並べ現場検証が始まった。事故の当人は仕方ないにしても、渋滞に巻き込まれた人も嫌なものである。日もとっぷりと暮れ家路を急ぐ人ばかりである。

警察官はメジャーで距離を測ったり車の破損箇所の写真を撮ったりしていたが、暗くても写るのだろうかと思った。免許証で住所を確認しその場は別れた。