「どっちが先に、オトナの対応をするか、なんだと思うよ。チョコが原因で友だちが減っちゃうなんて、つまんないじゃない」

佑子は、失笑を抑えながら真面目な顔をして言ってみた。今福くんは、まだ真剣な顔をしているのだが。

「私がアルフォート、買ってあげよっか」

「いや、アルフォートがっていうんじゃなくて」

今福くんは、まいったな、という顔をしてため息をもらした。

「で、先生さ。末広、何か言ってる?」

「ん? なぁに唐突に」

「いや、あの子、最初サッカー部のマネになろうとしてたんだけどさ、いきなりやめちゃって。で、今になってビー部のマネージャーって、どういうことなんだろう、って」

「だって、今福くんだってサッカー部やめてこっちに来たんじゃない。今福くん自身はどうなのよ」

「オレはさ。オレは、山田先生と、何だか合わねぇなって、前から思ってはいたわけ。あのヒトすぐ怒鳴るし」

「私も今度、怒鳴ってみようか」

「和泉先生が怒鳴っても、悲鳴にしか聞こえねぇって」

「ストレートに言おうか。きみは山田先生に、めんどくさいヤツって思われてたみたいだよ。こういうこと、同僚としては言っちゃいけない気もするけど」

「結構、細かいところで逆らったりしてましたからね。でも、正直言って、オレ、上から目線で何か言われるの、嫌いなんですよ。そりゃね、勉強のこととかは先生が上から目線で言うのもしょうがないでしょ。でもね」

「もう一回、ストレートに言おうか。今福くんも、ストレートにならないと、ラグビーできないよ。あいつはイヤだ、あいつはウザいって言ってたら、そのスキにタックルされるんだから」

今福くんは、今の佑子との会話を、むしろ楽しんでいる。それはきょろきょろと動く目線で分かった。多少イジっても、彼はポジティブに反応するだろう。

「アルフォート買って弁償して、ゴメンナサイって言いなさい、って風間くんに指導しようか? でも、そんなの小学生だよね」

あはは、と彼は笑みをもらす。そこまでガキじゃねぇし。そうは言っても、引っかかってたから誰かに言いたかったんだろう。

「元サッカー部。きみにはキッカーになることを期待してるんだよ。楕円のボールに、早く慣れなさい。誰彼にプンスカしてたら、誰もきみにパスを投げないよ。でもそれは、ティームの損失なんだよ。分かるよね。今福くんはそういう部活に足を踏み入れちゃったんだから、もう後には引けないんだぞ」

少しだけ、視線を強くして、あえて今福くんの目を正面から見た。そして彼の目は佑子の視線から逃げなかった。

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『楕円球 この胸に抱いて  大磯東高校ラグビー部誌』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。