「これで淳の追及は封じた。八汐、飲み明かすぞ」

「待って。すごく大事なことがあって……」

様子が深刻だから、素朴な、率直な青年を視ていると情が湧く実感があって

「まだ酔っ払っちゃいないから言ってみろ」

唇を噛んで俯いてしまった娘婿を、何とかしてやらなければならないのだろうと腹を決めて見守る。淳はこの男を選んだのか……

「いいことも悪いことも凡夫にできることは高が知れているんだよ。順番に、今度はなんだ?」

「……淳さん……妊娠したんです……」

二人とも戸惑った。経験がない。間があって、(おもむろ)

「おめでた、って言うぞ。困ることじゃないだろう?」

「気を揉ませるな。はっきり言ってくれ」

「……淳さん、ひどく怖がって……医者は、高齢の初産だけど何も心配はないと……あの人は、その心配じゃなくて……僕の……父性……を信じてくれないんだ……」

「おいおい、まさか」

「そうなんです。僕は、努力していい父親になりたい……だけど……」

「八汐、全部吐かないと悪酔いする」

「僕は、学生時代に、妊娠を知っていたのに別れた人がいて……子供は別の父親の所で幸せに育っている。信頼できなくて当然だ」

「と、娘は言ったのか?」

「いや。優しいから言わない」

「八汐、そういうところが感心しない。勝手に卑屈になるな。俺たちの、淳の家族が変則だからって卑屈にはならないよ。左利きの話と同じだ。自分で慣らしていくんだ。時々失敗する。またやり直す。その繰り返しさ」

「あなた方のように男らしくないから」

「もう言うな。娘の心配は俺たちなりにわかる。周りが男ばかりだし……母親が経験しなかったことだし……これからの世の中、育てることは大変だ。そこを力を尽くして育てるんだ、それで親になっていく。いっしょに親になっていく。あれにもわかっている。医者が言うとおりだ。万全の備えはあるんだ。大丈夫だ」

「俺たちが爺ちゃんになるとはな」

「生きてみるものだ」

「八汐も淳も発展途上だ……俺たちも……俺たちはどうなるかなあ」

「祝杯だ。めでたい時はめでたく。八汐、でかした!」

立ち上がって、グラスを高く上げて左手が照れ臭かったのなんの。