〈妊娠4ヵ月目の出来事〉1996年

私が妊娠する少し前から、夫の会社同僚のYという若い女の子がよくうちに遊びに来ていました。彼女は、もともとご両親と同じ会社で働いていたのですが、父親の退職でご両親は地元の九州に帰り彼女だけがこちらに残ったのです。そのため、知り合いもいない土地での一人暮らし、慣れないこともあり、夫がうちに連れてきて私がご飯をつくり、話し相手にもなっていました。

何らおかしな関係でもなく、ただの会社の同僚。そう思っていました。そこに私の妊娠。いま思えば、夫にはやはり子どもができるという事実が受け入れられなかったのだと思います。

Yがうちに来る頻度が高まりました。私が留守の間に二人で家にいることも。そして、Yは私に何のあいさつもない。平然と夫とゲームをしたり、タバコも吸っていました。

何かおかしい。これは普通のことなんだろうか。私には少しも遠慮することなく、二人がうちでくつろいでいる。しかも、ほぼ毎日。

夫にもおかしいということは伝えましたが、何も行動は起こさず、Yと二人で出かけるようにもなりました。

私はある日、Yの家に行き、もうこういう付き合いはやめてくれるように言いました。そこで彼女の口から信じられない言葉を聞きました。

「私はねえさん(私のことです)のご主人と関係を持ってしまいました」

何が起こったのか、どうすればいいのか、頭が真っ白になったまま家に帰り、夫に事実を確認しました。彼はあっさりと認めました。

「父親になる自信がなかった」と言いました。

そして、「お前が子どもを欲しがったから……」と。なに? 子どもができたことが浮気の原因? 私が子どもを欲しがったから? 私のせいだって言いたいわけ? 二人で頑張って子育てしようと話したのに?

このときのことは、いまでもあまり詳しく思い出すことができません。あまりのショックと、それが私が妊娠したせいだと言われたこと、あんなにお世話もしたYが相手だったということ、こんなことある? どういうこと? 絶望で、思考が停止したような感覚でした。

これからどうするか。この人とこれからも結婚生活を続けるのか。別れるのか。でも、子どもは? もうすぐ生まれるのに? 妊娠をとても喜んでくれた両親や、義両親にも言えませんでした。

申し訳なくて、情けなくて、子どもにも悪くて。妊娠4ヵ月目。この子をどうするか。赤ちゃんの誕生を心待ちにしているはずの私が、この子をどうするのか考えているなんて。ごめんね、お腹の中の赤ちゃん。本当にゴメン。

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『カサンドラ症候群からの脱却』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。