KANAU―叶う―

望風が先生と会えなくなって一年が過ぎた頃。望風と先生との連絡はいつのまにか途絶えた。望風は、彼がどこでどうしていて、何を考えているのか全くわからなくなった。信じられなくなった。

いや、もうとっくの昔に望風は気づいていた。この愛は成就しないことを。望風は、気持ちを整理できずにいた。彼や自分を問いつめたい気持ちをぐっとこらえて、毎日耐えるように過ごしていた。

会いにいくことさえできない。声を聞くこともできない。あんなに信じていたのに。わかっている。先生が望風のことを想って、望風の未来を想って、何かを決断したんだということは。せめて、どんな気持ちでいるのか知りたかった。本当は会ってはっきりさせたかった。

はっきり、もう好きじゃないと言ってもらった方が前に進めるのか。それでも忘れられないか。「離れる」ことの残酷さを知った。毎日会えていたからこそお互いの心をつなぎとめていられたんだなとわかった。あきらめようとしても、忘れようとしても、頑張ろうとしても前に進めない。区切りをつけることができなかった。

でも、このまま進むしかない。生きているから。望風は、人を愛して初めて永遠というものを感じてしまっただけに、これ以上に人を愛する事はないのではないかと思っていた。でもそれは、間違っているのだと、自分の運命の人は先生ではないんだと、自分で納得するのにはまだ先が見えなかった。

先生を愛したことで生まれたものは、「夢」の存在だった。望風は、先生の夢とともに生きていきたいと思った。自分のことなんてどうでもよかった。でも、そう思うことは、一見素晴らしいことのようで、神様には好かれないことなんじゃないかと思うようになっていた。偽者じゃだめなんだなと。

そして、「夢」ってどんなものなんだろう。そのことがすごく気になっていた。私の夢って何? 望風は、夢について考えることが多くなっていた。先生が望風に託してくれた絵がある。望風にとって、見覚えのない風景の絵だった。

先生の人生が、先生の優しさが無駄にならないように、先生を恨まないように、なんとなく脳に刻まれて、たまに思い出すようになっていた。これから生きていくヒントになるような、道標になるような、そんな気がした。謎を解くように、毎日を過ごした。遠くで悲しいメロディが聞こえる。乾いた涙の音だった。みんなを救ってあげたいと思った。悲しみや苦しみから、すべての人を救ってあげたいと思った。望風にできることは、たったひとつ。