あるがままに生きる

新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)を受けて、2020年春の緊急事態宣言では全ての学校が休校になったほか、百貨店、映画館、スポーツジムなども休業を余儀なくされました。まさに、人と会って会話や食事を楽しむことはおろか、家から出ることすらはばかられることになってしまうという、今までに経験したことのない非常事態です。

夏が過ぎても新型コロナウイルスの猛威は衰えることなく、今やマスクに手指の消毒、在宅勤務やオンライン会議など、人と会わない、面と向かって話をしない、食事をしない、という新たな日常が始まりました。政府や都道府県の首長からは、いわゆるニューノーマルを心がけるようにというお達しが日々繰り返されているのです。

そんな新たな日常に関して、さまざまな弊害が起こりつつあるようです。たとえば、出社せずにリモートワークになってしまった新入社員は、先輩の仕事のやり方などを学ぶこともできず、成果が出せないだけでなく自信を失いつつあると言います。また、新たな希望を胸に大学に入学したにも関わらず、リモート授業ばかりで誰とも友達になれず、アルバイトで収入を得ることもできず、退学という道を選ぶ大学生もいるようです。

私たちは古来、一堂に会し、一緒に何かをすることで人と人との絆を作り、社会や文化を築き上げてきました。たとえば、日本各地に残る祭りは、地域の皆が力を合わせて神輿を担いだり、山車を引き回したり、踊ったりすることで人と人、人と自然が一体となり、生きている実感や充実感を感じていたのです。そして、そのようなつながり、一体感こそが、一人ひとりの「生きる力」となっていたのだと思います。

コロナ禍の中で人と人とのつながりが希薄になっていくことは、一人ひとりの生きる力を損なうことになるのではないかという危惧を感じています。そこで大切なのが、「ありのまま」を受け入れる、ということです。

不安神経症の治療法のひとつに「森田療法」という治療法があります。これは精神科医である森田正馬(もりたまさたけ)氏によって創始された独自の精神療法で、世界中の国々で実践されています。この「森田療法」を簡単に言えば、自分の「あるがまま」を受け入れるということです。

誰でも不安や恐怖を感じることはあります。その不安や恐怖に対して「こうあるべき」と考えたり、「こうあってはならない」とコントロールしようとしたりすると無理が生じ、かえって不安や恐怖にとらわれてしまうのです。「森田療法」では、不安や恐怖の感情を無理に排除しようとするのではなく、それらをそのまま受け入れるようにする。つまり、「こうあるべき」「こうあってはならない」といった考えから脱して、常に「あるがまま」の心でいられるようにすることを目指します。

先行きの見えないコロナ禍の中で、不安や恐怖が勝ってしまう瞬間は少なくありません。しかし、誰もが不安や恐怖を感じながら生きています。その不安や恐怖を無理に押さえつけるのではなく、不安や恐怖があって当然だと考えて現状をそのまま受け入れるように心がけてください。きっと明るい光が見えてくるはずです。