「もう君は人妻なんだ」

辛い瞬間だったが

「気にしなくていい。考える時間はあった。真っ先に僕に教えてくれた。それで僕は納得した」

気を取り直して

「姉たちが交代で死なないように監督に来るんだ。几帳面な二番目の姉が、何日分も食事作り置きしていった。今日のをいっしょに食おう」

時間が気になる。

「いろんなことがあったね。君にも僕にも。歳をとったね。月並みだが、人生てこういうことなんだ」

携帯の着信音。

「いいよ、出給え」

「父です」

友だちはどうだった? と言っている。

痩せて、食欲がなくて。

話はできたの?

ええ。

婿殿を泊めたいんだが、君が那須だそうなので。男三人で語り明かそうと重信も言っている。お許しがあれば。

生方が携帯に手で蓋をして、姉がいっしょだから君、泊まると言え。

「じゃあ……こちらも、お姉さんがごいっしょなので、泊めていただくと伝えて」

「話すかい?」

許可貰ったらいいです、と八汐の声が入る。

「友だちとお姉さんによろしく」

「君たちは一味だね」

「……違うことを考えているのですけれど」

「……いいよ、どうでも。来てくれたんだ。あの日と同じだ」

酒の味がわからなくなった。泊まるのだから、君は飲むといい。姉たちが好きな酒を置いていく。果実酒があるよ。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『フィレンツェの指輪』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。