KANAU―叶う―

大地が通う中学校は、比較的規模の大きい全校生徒800人ほどの学校だった。どの学校にもマドンナはいる。放課後の音楽室で、毎日のようにピアノを弾く可愛い女の子がいた。小柄で細身で色白で、小さな顔がキュートな女の子だった。一見おとなしそうで優しそうな笑顔の多い印象の彼女が、望風だった。

望風が、いい曲を作り、いい声をしていると武士に教えたのは、美術の教師だった。それを武士から聞いた大地は、優理と武士を誘って、その日の放課後、音楽室へ行ってみた。望風の様子を探ろうと企んだ三人は、運動靴に履き替えて屋外から音楽室をそーっと覗いた。息を殺して、きょろきょろと音楽室をなめるように見渡す。望風はどこだ。見つからないように静かに目だけを動かす。望風が見当たらない。静寂が続く。ザザッと音がしたかと思うと、大地の目の前に望風がいた。

しゃがんでいたのか、望風が急に立ち上がったのだ。望風は、窓際にいたようだ。望風は、三人には全く気づかず、椅子に座った。左手にスケッチブック、右手にペンを持っているようだ。窓が開いていて、音楽室の中の音がイヤホンをつけているかのように細かく聞こえてくる。なんだか悪いことをしているようで、三人は緊迫した空気に包まれていた。唾をのむ音さえ響いてしまいそうだ。望風は、真剣で集中したような表情で、何かを書きなぐっては、ペンを顎のあたりに当てて考え込むようにしたり、また書いては、天を仰いで想像しているのか考え直しているのか……、そんなしぐさを繰り返していた。

望風の表情が、映画のヒロインのように美しくて、三人は我を忘れて見入っていた。純粋さのようなものに吸い込まれそうだった。望風が立ち上がってピアノの方へ向かう。右手でメロディ、左手で和音を弾きながら、望風が歌いだす。可愛い声だった。可愛さを保ったまま伸びやかだった。気づかせないブレスが、力強さを増幅させる。今まで聞いたことない歌声だった。いや、今まで味わったことのない感動だった。

三人は、そっとしゃがんで、校舎にもたれた。酒を飲んで酔ったように、ぼーっと空を見上げた。武士が、