先生たちが食べてしまった

生徒たちには一つも渡さず、先生たちだけで食べてしまった。

飢えは先生たちから子弟たちへの思いやりまでも奪ってしまって、自分たちの食欲を優先させて食べたのだ。

談笑しながらキャラメルを配って食べている先生たちを見たMは、全身を震わせて腸はらわたが煮えくり返るような怒りを覚えた。

こんな所にいたら、いまに瘦せ細って飢死させられるのではないかと思った。すっかり先生たちへの信頼感が失せてしまったのだ。

やっぱり思った通りだった。二箱とも渡さないで一箱は残しておいて良かったとMは思った。

その夜から仲間には一つも与えないで、Mは布団のなかに入って掛け布団を被って残しておいた一箱のキャラメルを一つ取り出して口のなかに入れてしゃぶりながら、将来、先生にだけは絶対になりたくないと心に誓った。

十日ばかりが経ちキャラメルが最後の一つになって大事に舐めながら眠りについた。

一人で西臨寺を脱走

翌朝、目覚めてもMの怒りは収まっていなかった。

友達には一つもやらず、一人で毎夜、布団のなかに隠れて一つずつ舐めたキャラメルが全部なくなった翌日、Mは決心した。

自分一人で広島へ逃げ帰ることにした。

その日は誰にも相談しないで、登校の途中から皆と反対方向へ歩いて、学校に行かず庄原の駅へ向かった。お金は一銭も持っていないのでキップは買えなかった。

仕方なく、広島方面にある次の駅の備後三日市まで歩いていくことにした。

そこなら改札の後ろのほうから線路伝いにホームに入って、改札は通らずに無銭乗車すれば、広島に行けると悪知恵を働かせて歩きだした。

ところが線路沿いの道を昼近くまで歩くと腹が減って足も痛くなってきて歩けなくなり線路脇の道にしゃがんだ。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『ピカ・ドン(原爆落下)とマリリン・モンローを見た少年M』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。