堀内は、エンジン開発をするのに実験場も併設する必要があり、人家から離れており、しかも交通の便の良いところを探していた。

織田が「私が子供の頃過ごしていた、四国高知県竹取村に太平洋が望める、元ミカン畑がある。広さは5町歩ほどあり高知竜馬空港から、車で1時間ほどで行け、しかも過疎で人家も少なく多少の音が出ても問題ない地域だが、そこで研究するか?」と、提案された。

堀内に選択の余地はなかった。

堀内は、竹取村は飛行機の定期路線からも外れており、正面は太平洋で障害物はない、過疎で危険なエンジンの試験運転にも問題なさそうだと即座に判断した。

「織田さん、是非お貸しください。私の研究にはもってこいの場所です」

この竹取村の特産はミカンとタケノコで、猫の額ほどの段々畑がいくつも連なる自然豊かなところであり、村の海岸は砂浜が長く広がり陸地との間には防風林として松林が続く。海岸には6月になると多くのウミガメが産卵に上陸してくる。

夜空に輝く星、ウミガメの産卵、こんな環境で育った織田は子供の頃から宇宙と浦島太郎の童話をなぜか身近に感じていた。

今でも織田の同級生がミカンを作っており、織田は小学生の頃は、ミカン畑に入っては虫ばかり追いかけている少年だった。

このミカン畑は今でも織田の所有地ではあるが、耕作と管理は地元の友達にゆだねられていた。

織田は毎年この故郷に、ふるさと納税として数千万円の納税寄付を行ない、村はその収入で助かっていることを村人の誰もが知っていた。

そんな織田さんの会社の人が研究しておられるとの評判で、堀内は誰にも邪魔されることなく爆発の危険を伴うエンジンの研究をすることが許され、山の中で1人研究に没頭できた。

試作エンジンは何度も爆発し小屋が吹き飛んだり、爆音で近隣の住民からは嫌がられたりすることもあったが、住民もロケットのエンジン開発というロマンと若い堀内に魅力を感じて、多少の爆音や危険を何となく許していた。