②血清Ca値に及ぼす作用機序の考察

各利尿薬の作用機序は、ループ系がヘンレ係蹄上行脚に存在するNa−K−Cl共輸送体の阻害作用、サイアザイド系が遠位尿細管に存在するNa−Cl輸送体の阻害作用になります。各部位をガイトン生理学(2018年)にあった図を自分なりに改変すると図37、図38のようになります。

1.ヘンレ係蹄上行脚(図表2)

Na−K−Cl共輸送体でNa+、K+、Cl−は再吸収される。

⇒ Na+とCl−はさらにNaポンプ、輸送体、チャネルを通じて血中へ移動する。K+は管腔側に開くKチャネルを通じて管腔へと戻りやすい。

⇒ 細胞間隙の管腔側はK+により+傾向、血液側は血中へ移行したCl−により-傾向となり電位差が生じる。

⇒ 管腔にあるCa2+が+への反発と-への吸引で細胞間隙を血液側に移動する(Ca2+は血液側に流れやすい)。

写真を拡大 [図表2]ヘンレ係蹄上行脚

上記とは別に副甲状腺ホルモン(PTH)や活性型ビタミンD3により活性化されるCaチャネルが管腔側に存在し、細胞内に移動したCa2+はさらにCaポンプや交換体により血中へ移動する。

●ループ系薬の作用:

共輸送体を阻害するためK+とCl−による電位差ができにくくなり、Ca2+の血中への移動が弱まり低Ca血症傾向になります。他方Caチャネルは温存されるので、ループ系のCa再吸収阻害効果は限定的になると思われ、ループ系の低Ca血症は臨床上さほど問題にならないものと考えられますが、フロセミドのみに副作用が指摘されているのはフロセミドの共輸送体阻害作用が他のループ系よりかなり強いことを推測させます。

2.遠位尿細管(図表3)

Na−Cl輸送体でNa+とCl−は再吸収される。さらにNaポンプ、輸送体、チャネルを通じて血中へと移動する。

Ca2+はCaチャネル、ポンプや交換体を通じて血中へと移動しやすい状態になっている。

写真を拡大 [図表3]遠位尿細管

●サイアザイド系薬の作用:

輸送体を阻害するため尿細管細胞内Na+濃度が下がります。それによりNa−Ca交換体が活性化して血中のNa+を細胞内に移動させ、交換にCa2+が血中へ移動しやすくなり、高Ca血症へと導いていきます。

以上から各尿細管での輸送体やチャネルの図解モデル(図表2、図表3)が生体内での動きを的確に反映しているとするならば、サイアザイド系の方がループ系より血中Ca濃度に影響を及ぼしやすいと考えられました。

③まとめ

体の中の電解質バランスは日常生活を送る上でも大変重要なのですが、薬によってはその電解質バランスを崩してしまう薬もあります。その典型例が今回紹介した利尿薬になります。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『知って納得! 薬のおはなし』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。