③糖尿病患者は脂質異常症になりやすい

一方、糖尿病患者が脂質異常症を合併することが多い理由として、脂質代謝に関わるLPL(リポタンパクリパーゼ)の作用不足が指摘されています。代表的な脂質代謝の流れは下記のようになります。

(1)食事由来中性脂肪等→腸管由来のカイロミクロン→(LPLによる分解)→カイロミクロンレムナントへ

(2)肝臓由来コレステロール→VLDL→(LPLによる分解)→IDL→(LPLによる分解)→LDLへ

LPLの活性はインスリンに依存しているため、インスリン作用不足の糖尿病患者ではLPLの活性が低下して中性脂肪の多いカイロミクロンやコレステロールが比較的多いVLDLが長く血中に存在し、脂質異常症につながりやすいとされています。

【LPLについての豆知識】

脂肪組織などから合成分泌される酵素で血管の内皮表面に存在し、血管内を通過するリポタンパク(VLDL等)に含まれる中性脂肪を遊離脂肪酸とグリセリンに分解する酵素。分解生成物の遊離脂肪酸は脂肪細胞などに取り込まれてから中性脂肪に再合成されて細胞内に貯蔵される。インスリンはこのLPL活性を高めるため、脂肪細胞内の中性脂肪貯蔵を増やし、肥満を促進する。LPLはさまざまな組織の毛細血管壁に存在しているが脂肪組織での活性が最も高い。筋肉や心筋でのLPL活性も高いが、インスリンはそこではLPL活性を逆に低下させるとされる。

④再び、スタチン系薬の血糖値を上げる機序について

実はパスカラニュース67号(2010年)「アトルバスタチンと高血糖」でもこの問題に触れており、高血糖に関する記述の部分を一部修正しながら再掲しておきます。

2003年6月にそれまでの副作用の集積から、「糖尿病患者、非糖尿病患者を含む19例(男8例、女11例)にリピトールⓇとの因果関係を否定できない血糖値(HbA1cを含む)の上昇、ならびに糖尿病の悪化例が認められた」ために添付文書の慎重投与の項目に糖尿病患者が追加されました。ちなみに、糖尿病患者への慎重投与や高血糖の副作用は「リピトールⓇ」のみであり、他のスタチン系の添付文書では報告が見られません(2010年当時)。リピトールⓇの製造元であるアステラス製薬に機序を確認したところ、動物実験での報告例が1報(GLUT4の作用を阻害してインスリン抵抗性が増加)があるだけだそうで、まだ明確にはなっていないとのことでした。

アステラス製薬以外の報告では、理論上の話にはなりますが、スタチン系によるHMG-CoA還元酵素阻害はコレステロールばかりでなく付随する反応のユビキノン(CoQ10)の生成も抑えます(これが横紋筋融解症の一因ともいわれています)。ユビキノンはTCA回路と共役する電子伝達系(ATP産生)の構成成分であるため、ユビキノンの合成が阻害されるとATPの産生も減少することになります。膵臓におけるインスリンの分泌にはATPの産生が必要となりますから、スタチン系によるユビキノン生成低下がATP減少を引き起こし、それがインスリン分泌低下を招き、血糖値を高めるという可能性があります。ただ、この理論であるとすべてのスタチン系薬剤に高血糖の可能性が出てくることになります。

そこで膵臓へのスタチン系薬間の分布の差ということになりますが、動物実験での薬剤の体内分布をインタビューフォームで見ますと、図表2が得られました。表中の数値は血漿濃度を1とした場合の各臓器での存在比率を示しています。

写真を拡大 [図表2]動物実験での薬剤の体内分布