⑤ベンプロペリンの作用点は?

音が高く聞こえるのはどこかで高周波神経系に切り替わったとも考えられますが、例えば中間周波神経系路が途中で高周波神経系につながるというのは不可逆的な要因を伴う気がします。

しかし、薬をやめると治まるのですから可逆的な作用と思われます。従って、切り替わるというよりは低周波系路や中間周波系路の機能が抑制され、高周波神経系路の機能は維持されていると考えると、周りの音がより高周波に聞こえる、つまり1オクターブ高く聞こえる場合もあり得るのではないでしょうか(これは全ての音が高周波に聞こえるのではなく、高周波音が特に強調されて聞こえる場合の説明にしかなりません)。

聴覚神経経路は蝸牛部の最初から区別されているので、ベンプロペリンが聴覚神経系のどこで悪さをしているのかは分かりませんが、鎮咳作用がらみで考えますと、咳中枢が存在している延髄での作用が有力かもしれません。延髄にある低周波聴覚神経と中間周波聴覚神経のシナプス間隙に作用して、神経伝達物質と受容体での競合反応を引き起こしているかもしれません。そして高周波聴覚神経シナプスには何らかの違いで影響を与えないため、高い音が鮮明化されてくるのでしょうか。逆に低音に聞こえるのは高周波聴覚神経シナプスに悪影響を与えている可能性があります。

⑥まとめ

聴覚障害の発症やその障害のパターンの違いは、めったに起こらない聴覚神経の構造上の個人差かもしれません。それゆえにベンプロペリンでもほとんど聴覚神経障害の報告がなく、他の中枢性鎮咳薬はもともとその当該部位に作用しにくい構造なのかもしれません。副作用の機序別分類で言えば、薬理作用型の副次的反応型に特異体質が併存した型と言えるでしょうか。また薬を中止しても回復しない例は、どのような使い方をしていたかは不明ですが、シナプスにある受容体への不可逆的な傷害(その場合、ある一定時間あれば受容体新生で入れ替わりいずれは回復すると考えられます)、もしくは聴覚神経自体に永続的な変性を与えるようにした薬物毒性型副作用になるのかもしれません。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『知って納得! 薬のおはなし』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。