連休中は絵を視ないで、淳が植木屋を入れる予定だった庭仕事を二人でやっつけることにした。八汐は梯子に上ってすくすくと天頂を目指す果てしなく沢山の(すわえ)を切り、淳が地上でそれを束ねていった。梅も山ぼうしも山茱萸花梨(さんしゅゆもかりん)も、若葉が瑞々しかった。森の中の一軒家で二人きりで汗かいているのが楽しくてしょうがなかった。高菜漬けと梅干の握り飯に卵焼き、八汐にはローストビーフの厚切りのおまけ、なめこの(あか)出汁(だし)を庭石に腰掛けて食う。次の日も志願したが、躰中軋む、と嫌がった。失業か。肩や腰や躰中揉んでやって、明日もう一日やろう、ほら、あんなに陽も風も通る。実は八汐も腕と首が凝っていた。

まる一日の休養でも淳は庭に下りるのが大儀そうなので、あなたは動かなくていいからね、半日で終わろう、今日は僕が弁当作る、庭で食べよう。木戸の傍のベンチにいればいいのに、八汐が視える位置に移動しては高枝切りを見上げている。(しぼ)んで見えて、別れた時の○○の姿が思い出されて、梯子を下りる脚が浮いた。一遍にやってしまわなければならないわけじゃない、休みの日にちょっとずつやろう、いい運動だ。一昨日の庭の食事がひどく気に入ったので、大きい握り飯と、卵焼きもどき、半熟の炒り卵を一枚の薄焼きに包んだ奴、葱と豆腐の味噌汁にして、居間で食った。熱中症とも思われなかったが、八汐を視る微笑に元気がない。ご飯ておいしいのね、あなたが作ったから? 決まってるじゃないか。粗食が美味い。紅茶、梅酒入れて。

「八汐くんは……若くて、ヴァイタリティが溢れて、恰好いい……」

ん? 怪しい。

「もっと褒めて」

「本当なんだから」

「本当さ、もっと褒めて。なんだって聴いてあげる」

「わたしは……やっぱり若くない。こんなに疲れやすい」

「……僕の淳さんは捥ぎたての果物みたいに新鮮だ」

「目の錯覚」

「変なこと言うね……錯覚は目だけじゃない、全部錯覚だよ。言い出したら切りがない。世の中が錯覚なんだ、人が錯覚なんだ、自分が錯覚なんだ。それ言っちゃお終いだ」

「……わたしも錯覚していた。苦労しなかったから、歳より若いと。でも若くない。子供産むのが怖い……」

最後は消え入りそうな声。

「そんなことを……」

「こんなことは……あなたをいいお父さんにしてあげられないなんて……」

「そんなことを……不意打ちだ……僕、そんなことを……頼んだか? あなたが泣くなんて……そんなことを言うなんて」

惨め、と言って八汐のシャツに涙を擦り付ける。

張り切り過ぎたんだ、僕も首と腕と腰が痛い。昼寝しよう。

向こう向きの躰に腕を廻している。寝た? と訊くと、寝た、と答える。