「というわけで、わたしは、小間物問屋の方が誠実だと思います」

と言うと、雪は、えっ、という顔で困惑している。

「だって、わたし、菓子問屋の長男に、もう重なったんです……」

と言う。

麻衣はもう知らんよ、と思った。そんなに好きなら、菓子問屋の長男と、結婚すればよい!

麻衣は雪から離れて行った。今日も店に来て、お酒の用意をしていると、麻衣に客だと下働きの人が呼びに来た。出て行くと、雪が来ていた。雪はにこにこと、麻衣に笑いかける。

「わたし、あなたの言った通り、小間物問屋の長男に嫁ぐわ」

「え、菓子問屋ではなかったの?」

「ええ、菓子問屋は、止めました」

「どうして?」

「あの人は、他にも女の人が数人いたのよ。でも、付き合いをやめないし、それなのに、わたしと結婚するって言うし、話にまとまりがないの。だからわたし、もう止めました」

さっぱりした顔をしている。

「あなたの言うとおり、小間物問屋の長男が、やっぱり素敵でした」

と雪はほんのり、頬を染めるのだった。後から、小間物問屋の長男が、雪の傍で、やっぱりニコニコと寄り添っているのだった。

「良かったわ、うまくまとまって……」

麻衣も嬉しくて、雪の手を取ったりしている。その時、新之助たちがやってきた。

「や、こんにちは、麻衣さん、今日は機嫌が良いですね」

と賑やかに、麻衣の前に現れた。麻衣は新之助を見ると、やっぱりニコニコと、笑っている。今日の新之助は、上は肌色の着物に、下は黒色の袴だった。とてもよく似合っている。麻衣は、新之助をこれまでにない、情けの入った顔で見るのだった。

新之助は、ボーッとして、麻衣に見とれるのだった。柳の木の枝も、見ちゃおれん、というように揺れていた。二人の男でも、せんじ詰めれば、やっぱり先の男かな!

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『紅葵』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。