今度は菓子問屋の長男を訪れた。菓子は子供が大好きだ。子供がいっぱいという認識は薄れた。大人の客が数人見ていた。それはすぐ分った。どの菓子も高いのである。多分贈り物にするのだろう。客は途絶えた。麻衣は菓子を見るふりをして、声をかけた。

「あら、この菓子は珍しいけど、どこで作っているのかしら?」

というと、番頭が出てきた。

「これは、山陰の物です。特別に(あつら)えてもらっています。だから品数が少ないです」

「へえー、じゃこれは?」

「あ、こちらは江戸で作っています。甘いですよ」

と一握り掴んでて、番頭は麻衣にくれた。成程甘くておいしかった。長男は出てこない。

「ここの旦那さんはいないのですか?」

麻衣がそう尋ねると、番頭は困ったように、奥に目を注いだ。

「何か?」

「ちょっと尋ねたいことがあります」

「そうですか、ちょっとお待ちください」

そういうと番頭は、奥に入って行った。しばらく待っていると、長男が出てきた。

「わたしが、お聞きしましょう」

長男は穏やかに言った。男前はいい。鼻筋も通っている。だが、目の色は澄み切ってはいなかった。どこか汚れた感じがするのだ。この長男は、どこかで遊んでいると、麻衣は感じた。

「この菓子は、どこから入ってきているのでしょう?」

「あ、これは、確か……おーい番頭」

と途中で番頭を呼んだ。番頭は他の客をもてなしていたが、飛んできた。

「はい、なんでしょう」

「この菓子は、どこの、さん、でしたでしょうか?」

「あ、すみません、わたしは奥に客を待たせているので、番頭に聞いて下さい」

そう言って、長男は去って行った。店の主人なのに、菓子の産地も知らない。とんだ、とうへんぼくだわ、麻衣はがっかりした。そして、女中に聞くと、旦那はあまり店には出ない、と言った。

こんな菓子屋さんがあるだろうか? これだけで、人を決めてはいけないが、どうも麻衣は、小間物屋の長男が、良いような気がした。むっつりと言うが、店に対しては、一生懸命に商売している。如才がない。顔は二人ともよい顔をしている。菓子問屋の方は、目に遊びの匂いがする。小間物屋は、一途な目だ。麻衣は、雪に逢って、自分が思ったことを進言した。