2007年

サン・マロで寿司

クリスマスまであと一ヵ月弱になった。街はすっかりクリスマスムードである。

レンヌ市内の広場にもクリスマス市(Marché de Noël)が開いた。広場にテントが張られ、民芸品、おもちゃ、 手作りアクセサリーやフランス版ドーナツなどの店が開き、メリーゴーランドでは子供達が歓声を上げている。

中には日本の掛け軸や中国の書画や筆などを売っている店もある。だが買おうという気にはならない。ながめるだけだ。

こうした夜店を見て歩くのに不可欠なのがホットワイン(ヴァン・ショという)である。プラスチックのカップに熱いワインを注いでくれる。二ユーロ。

ちょっと甘いこのホットワインを飲みながら夜店を見て歩くと冷えた身体も温まるのだ。

今週末会社のクリスマスパーティが開かれる。昨年、寿司を調達して運び、ひどい目にあった話を書いた。

今年は昨年の日本料理店「藤」で調達するのはやめて、別なところを探すことにした。

そんな折、サン・マロに寿司店があるという話を聞きつけた。サン・マロならクリスマスパーティ会場でもあるので配達もしてくれるだろうから絶好だ。

さっそく試食しに約七十キロの道のりを運転して店に行った。日本人赴任者仲間を誘ったのだが、皆都合が悪く当日は私一人。

店はテーブルが四つとこぢんまりした店構え。料理は日本で修業したベトナム人が調理しているとのことだ。

壁にはアサヒビールのポスターが貼られ、流れる音楽はJ-POP。それなりに日本風寿司店である。

私はビール、やきとりと握り寿司を注文。給仕の女性は日本人だろうか(確かめなかったが東洋系)?

出てきたやきとりはつくねとねぎま、フランスのねぎは太い深谷風ねぎでやきとりには適さないと思うが。案の定、これがねぎまか? という代物。つくねだけはかろうじて食べられた。

そして握り寿司。マグロ、サケ、エビ、シメサバ、そして巻物とひととおりは揃っている。よし! と一口。

「う〜ん、なんだこりゃ?」

一応酢は利いているが、ご飯がつぶれていて寿司のご飯ではない。そしてお吸い物にはマシュルームが。こりゃだめだ!

何とか食べ終わるとマスターが出てきて「セ・ボン?(いかがでしたか?)」。

「ウィー、セ・トレ・ボン(ええ、とてもうまかった)」と答えてしまった私。

こんなところでお愛想する必要もないのだが、生来気が弱い性格で悪くは言えなかった。

これで三十七ユーロ(日本円で約六千円)。とほほ……、はるばる七十キロも車を走らせて来たのにこれか、と思わず天を仰いだのだった。

サン・マロに住むIT部門のプロヴァンディエールにこの話をしたところ、

「タキチだろう。それなら知っているよ。でもあれは日本料理ではないよ」と言っていた。

フランス人にもこうまで言われては全く箸にも棒にも掛からないことがおわかりいただけるのではないか。

仕方なくレンヌ市内の日本料理店「あずみ」に、

「会社のクリスマスパーティに寿司を握ってもらえますか。三百人集まるのだけれど」と言うと、

「無理です。一日中握っていなければならない」とつれない返事。

こうして今年のクリスマスは寿司無しかと思ったのだが、ある日総務のフィリップ・ノヴァレスが寿司を頼むことにしたよと言いに来た。スーパーのカルフールで寿司を調達することにしたと言うのである。

カルフールに寿司があるのは知っていた。だが冷蔵ショーケースで売っているそれを見たならば、日本人は決してかごに入れようとはしないだろう。

見ただけで味が想像できるからだ。

フィリップは「日本人は気に入らないかもしれないけれど、フランス人にはご馳走だから」というのである。

「え〜、そうか。フランス人が気に入るならまあいいか」でも、フランス人の中には日本に出張したことのあるプロヴァンディエールのように、本物の寿司の味を知っている人もいる。

大丈夫かなあ……。

※本記事は、2018年10月刊行の書籍『ブルターニュ残照』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。