ところで、皿を割らせた事件の話は冗談だ。貴賓席の大テーブル席のサービスには、アルバイトではなくホテル社員対応で行い、そんな粗相があれば社員だって首にはならないだろうが左遷(させん)間違いなしだ!

その時の音楽に関係する集りであったパーティー会場には、久子様たち皇族の方々は御忍びで急にお越しになられ、ホテル側も急遽(きゅうきょ)セッティングを行わなくてはならず大変慌てたものだった。

しかし、幸いな事に本当の粗相もなく、また久子様の、ウェイターたちの(うわさ)に上られた御嬢様は、その会場のステージにお登りなされて一曲お歌もご披露なさたりもして、その音楽の集まりの会場に来られた皆さまと、また男性のウェイター達も、大変満足してお帰りになりました。

そのような事を覚えています。ウェイター達はそのお歌を聴いた後には皆夢心地になりまして、宴会マネージャーなどはとても心配に成られたそうです、パントリーでの仕事の合間での雑談でそのように我々皿洗い係の者にも言っておられました。でも結局、粗相(そそう)微塵(みじん)もありませんでした。

〈ただ全部を、僕は「洗い場」の扉の隙間から覗いていただけだ〉

※本記事は、2021年9月刊行の書籍『NEAT-CARE short short』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。