恭子とのつき合いは彼女が三〇代半ばを過ぎた頃まで続いた。

彼女は来栖と会う時はほとんど目立たない服装で、実際の年齢より老けて見えた。地味な服装は人目につかないようにとの配慮からくるものなのか、あるいは他の人間とのつき合いでも同様なのか質してみたい気持ちもあったが、結局聞かずじまいで終わってしまった。

中年になる頃の女性の場合、通常はむしろ実年齢よりも少し若返ったような印象を与える服装を好むものと思っていた。恐らくそういう世の常識からすると彼女は例外にあたるのだろう。普通と思える範疇に収まらないとか、簡単に説明がつかない場合には、彼はなべて安易な理由づけで済ませていた。

化粧でも彼女は目立たないようにと努めているようだった。言葉を介してのコミュニケーションの取り方でも、控えめというのだろうか、最小限の言葉とそれに見合う立ち居振舞いで済ましてしまう。しかしこれとは違って、時には懇切丁寧に他者に対しふるまうこともある。

待ち合わせの場所へ子連れで来た時など、彼女の関心が彼に向けられているのは当然としても、それ以上に連れてきた自身の子供への気配りのほうが圧倒的に大きかった。周りの人間には全く注意を払わず、彼に対してよりもさらに集中して子供の世話を焼くことに夢中である。

普通密会めいた形での出会いの場に臨む時には、家庭の主婦とか、子供の母親という側面をなるべくならば相手に見せないようにするというのが普通だろうと思い込んでいたのだが、恭子はこの面でも世間の常識から逸脱した人間だった。