とりあえず「ヒカルを助けたい」という桃の思いが切実なのは伝わってくるし、なんとかしてあげたいと俺も思うので、建設的に考えることにした。ヒカルへのアプローチ方法はまったく思いつかないが、とにもかくにも俺がカフェに入って彼女の様子を見てくるしかなさそうだ。ヒカルについて桃からの情報で分かったのは、

・学年は高校二年生である。

・学校は進学校で、場所は四谷。

・自宅は代々木上原で、このカフェから歩いて帰れる距離にある。

・家族構成は両親の他に四歳下の中学生の妹がいる。こちらは問題なく中学に通っているそうである。

・家では妹も含め家族とほとんど口をきかないらしい。一緒に出かけることもない。

・バイトや課外活動はしていない。塾も行くのをやめてしまった。

・友達と一緒にいるところは、最近はほとんど見かけない。学校をサボっている時も一人でぶらぶらしていることが多いようだ。

・彼氏はいないようである。本当にいないか確認したわけではないが、少なくとも外でそれらしき男子と一緒にいるところは見たことがない。

・一人で出歩くことが多いが、暴力行為のような危険にさらされたことはない。そこは本人も注意しているようである。

・名前はヒカル。漢字は光。

といったところだ。とりあえず桃と取り決めたことは、

・目標は三つ。一つ、彼女が抱えている問題を明らかにすること。二つ、学校に行けるようにすること。そして三つ、卒業後の進路を見つけること。

・ただし、いずれも努力目標である。できるだけのことはするが、向こうから拒絶されたら諦める。女子高生に迫る社会人、という図式になると、俺の身が危ない。

一時間後、駅で落ち合うことにした。店内に向かう俺に、

「かたじけない」

と桃が神妙な声と表情で言った。その様子を見て、力になりたいと思ったのは本当だ。

※本記事は、2021年5月刊行の書籍『金曜日の魔法』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。