5.結局、Ca拮抗薬による歯肉肥厚とは?

あくまでも個人的な推測になりますが、③−(1)の発症機序では線維芽細胞内へのCa流入阻害が歯肉肥厚を起こすという説明でしたが、おそらくCa拮抗薬によって歯肉にあるMMPを合成する細胞内(必ずしも線維芽細胞とは限らない)への酵素活性に必須のCaの供給が不足して十分には機能しないMMPが出来上がるため、古くなった細胞外コラーゲンが分解されなくなり歯肉内に蓄積して、それが肥厚として現れてくると考えられます。また活性のあるMMPの寿命(どれくらいかは不明です)も関連するので、その酵素の寿命が尽きて細胞外へ供給できる酵素数が減ってきた時期(つまりCa拮抗薬をある程度連用しているうちに)に肥厚が起こりやすくなると言えます。連用した後に発現する副作用なので毒性型と勘違いしやすいかもしれません。

6.それでも残る疑問

MMPを合成できる細胞(線維芽細胞も含めて)は体のどこにでもある細胞ですし、コラーゲン自体もいろいろな細胞の外に存在しているわけですから、体のあちらこちらで似たような症状が出てもよいのではないか? なぜ、歯肉にだけ肥厚という副作用が出てくるのか? そう思いながらアムロジピンの添付文書の副作用欄を再度見直してみましたが見つかりません。あえて言えば「関節痛」、「筋肉痛」がコラーゲンの蓄積で生じた関連症状かなと思いましたが不明です。

そもそも③−(1)の機序の関与は少なく、それより③−(2)の末梢動脈拡張と末梢静脈拡張のアンバランスによる歯肉浮腫説が納得しやすい気がしてきました。実際に浮腫という副作用が特に高用量時に見られ、また下肢浮腫も多いと言われているのですから。しかし薬理作用型だと比較的早期に発現するはずですが、連用後しばらくしてから発現するという歯肉肥厚の特徴が少々説明しづらくなります。

結局、問題提起だけになりました。

⑤まとめ

以前学んだことも、時代を経ると内容が変わってくるという例でした。情報収集には常にアンテナを張っていなければなりません。どのツールで普段からの情報を得るかを考える必要もありそうです。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『知って納得! 薬のおはなし』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。