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ベーシックインカム(BI)をどのように導入すればよいか

「カイシャ」としての日本の企業は、退職金、社宅、企業年金、医療保険や公的年金といった社会保険料の負担等、従業員にさまざまな福祉を提供してきた。しかし、会社の規模によって内容が異なっていたり、正規社員と非正規社員で差があったりする等の問題点も指摘されてきた。

いずれにしても、すべての企業が永久に存続するわけではないし、採用された企業により社会保障の給付内容、給付額があまりにも異なるのは、公平とはいえないだろう。

一般に、BIとは、最低限暮らしに必要な現金を、無条件ですべての個人に死ぬまで定期的に支給する政策である。所得、資産、能力、職歴等の条件を問わずに支給される。生活保護や配偶者控除が世帯単位の給付制度であるのに対し、個人が対象であるという特徴を持つ。

BIの導入を仮定し、支給水準としてはどのくらいが妥当であり、どのような方法で給付し、導入されればいかなる意義があるかについて検討したい。

「ブースト・インカム」としてのBIの給付水準

株式会社リクルートエージェントの海老原嗣生によると、公的年金はあくまでも高齢世帯の生活の下支えであり生計費全体を賄うことができないが、就労や資産取り崩しを加えて生計を成り立たせる、という性格を持っている。

海老原は、このことを「ブースト機能(生活を底上げするという意味)」と表現している(『年金不安の正体』海老原嗣生筑摩書房2019年)。「ブースト(boost)」とは、「引き上げる」「押し上げる」といった意味である。

BIの給付水準についても、ブースト機能を果たすものとして位置づけておけば、合意形成もしやすくなるのではないか。「ベーシックインカム」というより、むしろ「ブースト・インカム」という性質に着目して制度設計をするほうが、「まったく働かなくても生活ができるだけの給付がなされなければ意味がない」といった誤解からも解放されるだろう。

この後、給付水準を試算するが、実際にその金額まで届かなくても、生活をブーストする意義は大きい。

たとえば、みずほフィナンシャルグループが導入している「週休3日制」、「週休4日制」は、給与はそれぞれ約8割、約6割であり、必ずしも待遇の改善とはいえないが、BIによるブースト機能が組み合わされば、有意義なワークシェアリングにすることができるかもしれない。

ブースト機能という考え方を突き詰めると、給与を「固定部分」と「変動部分」に分け、「固定部分」に相当するBIを給付するという考え方もあり得る。つまり最低賃金で所定労働時間の労働をした場合に得られるだろう金額である。

たとえば、最低賃金が時給1000円、年間の所定労働時間が240日×8時間=1920時間とすると、年間192万円をBIとして給付するのである。これが、BIとしての理想形の上限になるのではないか。とはいうものの、人口を1億人とすると、総額192兆円の予算が必要になる。日本の国家予算は約100兆円であるから、これを支給するには労働生産性と資源生産性がよほど大きく向上する必要があるだろう。

したがって、ここでは、「当面の」給付水準について検討したい。

預貯金は、不況や解雇、病気等で、所得が途切れ、それまで毎月支払われていた給与が入らなくなったときに、その重要性が浮かび上がってくる。

山野良一によれば、貯蓄額がまったくない、または貯蓄額が50万円未満という、稼ぎがなくなれば2~3カ月で貯金が底をついてしまうことが予想される世帯は、子どもを持つ世帯全体では約18%、母子世帯では約59%に上る。

貯蓄額が100万円未満では、半年足らずで底をつく可能性が高いが、これらの層は、子どもを持つ世帯全体では約22%、母子世帯では約68%である(『子どもに貧困を押しつける国・日本』山野良一光文社2014年)。

BIが給付されれば、その分現金を倹約し、リスクに備えることができるようになるし、預貯金があまりなくても持ちこたえられる期間が長くなる。

※本記事は、2021年5月刊行の書籍『ベーシックインカムから考える幸福のための安全保障』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。