(選択2)を選んだ場合

和子さんは本当に悩んだ。

「放射線療法によって、また歩けるかもしれない」

この希望は、捨てるにはあまりに惜しかった。入院直後の緊急手術で、少しではあるがリハビリが進んだことが、つい昨日のことのように思い出された。でも、肺ガンが治るわけではない。そのことを考えた和子さんは、自分に言い聞かせるように、敬一さんに自分の思いを伝えた。

「お父さん、放射線療法はもういいわ。早く退院して、お家でゆっくり過ごしたい、そう思うの。クーさんにも会いたいしね」

「それでいいのか、よく考えた方がいいよ。慌てて答えを出さなくても……」

「もう何も慌てることないじゃない。いくら考えても、答えはないから、直観で決めた方がいいと思ったの」

「そうか、じゃあそうするか」

程なく在宅医療を担当してくれるクリニックが決まり、主治医に益田医師が就くことになった。入院から85日目、和子さんは退院することになった。退院してからは、2週間に1回の往診と、週に2回の訪問リハビリテーションに来てもらうことにした。

歩けないにしても、関節の拘縮などは予防しておいたほうがいいと思ったので、入院中に介護保険の申請も済ませていた。入院中にケアマネジャーも決めてあったので、退院と同時に介護保険のサービスを受けることができた。

退院してからしばらくのあいだは、比較的穏やかな日々が続いた。車いすで頻繁に近所の公園に散歩に出かけ、週に1度はそれまでの生活習慣であった外食も、お店を多少選びはしたが、敬一さんや娘らと楽しんでいた。

しかし退院後5週間を経過すると、徐々に肺ガンも進行し、呼吸困難も明らかに増悪していた。また、胸椎や腸骨の転移巣もかなり痛みが出てくるようになっていた。