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究極の選択

(選択1)を選んだ場合

酸素飽和度も80%台で呼吸不全の状態で安定するようになっていた。益田医師は敬一さんに提案があると言って、和子さんが寝ている部屋のドアを閉めて話し出した。

「田中さん、和子さんの状態はご覧の通り、徐々に悪化しています。もう口からご飯を十分に食べることができないと思います。私はこの状態で経管栄養なんて、実施しようとは考えておりません。できるだけ好きな飲みものを口から少量でもふくんでもらって、毎日の往診や訪問看護の際に、少量の点滴を実施していこうと思うのですが、いかがでしょうか?」

「先生のお考えどおりにしてください。あんまり苦しまない方向で対処してくだされば、ありがたいです。先生にお任せしておりますので」

それからは、毎日500ccの点滴が実施された。敬一さんは点滴の抜き方と、テープでの止血のやり方を看護師さんから教わり、こわごわであるが、和子さんの点滴の抜去を担当するようになった。

その日、敬一さんは午前中にどうしても行かなければならないところがあった。ほんの少しではあるが、家をあけなければならなかった。ほんの少しでも和子さんを一人にしておくことは、これまで一度もなかった。その日の和子さんの表情は穏やかで、呼吸も楽そうであった。

「ほんの10分くらいだから、いいか。和子さん、ちょっと近所までお使いに行ってくるね」

心なしか、和子さんの表情が不安げにも見えたのだけれども、本当に近くへのお使いだったので、敬一さんは数分間、家を空けた。帰ってきた敬一さんは、和子さんのそばに行ってすぐに異変に気がついた。

「和子、おい和子!」

すでに和子さんの息は止まっていたのである。