雑草管理に関連するさまざまな事柄について

1.遺伝子組換え作物と不耕起栽培

一九四〇年代の一時期、アメリカ農業は土壌流亡によって危機的状況に陥りましたが、それを救ったのが第二次大戦後に登場した有機合成除草剤の2,4-D です。

除草剤がトラクターによる中耕除草に取って代ったことにより、耕耘による土壌への負荷が軽減され、土壌流亡はやがて収まりました。しかし、それも束の間のことでした。農業生産性を上げるために除草剤が過剰に使われるようになり、地下水汚染という新たな社会問題を招くことになりました。

その後、土壌残留性の低い除草剤が開発されましたが環境汚染問題は抜本的な解決に至らず、結局、トラクターによる機械除草が復活し、それに合わせて土壌流亡問題も再燃するようになりました。畑を耕すから表土が流亡する。ならば、いっそのこと畑を耕さなければ良いのではないかということになりました。これが不耕起栽培の発想です。

畑を耕さなければ土壌は流亡しませんが、その代わりに雑草植生は一年生雑草から多年生雑草そして灌木類に遷移します。その一方で、一年生雑草から灌木類までどんな雑草でも茎葉に噴霧して枯らすことのできるグリホサートという除草剤が米国のモンサント社で開発されました。

そしてグリホサートで枯れない作物、すなわち遺伝子組換え作物(GMO;Genetically Modified Organism)を作ることができれば、グリホサートに非感受的な作物だけを残して畑に発生する全ての雑草を枯らすことができるのではないかというアイデアが生まれました。

ここで簡単に遺伝子組換え作物について説明します。

グリホサートはチロシンや葉酸などの芳香族化合物の生合成を触媒するEPSP合成酵素(EPSP synthase)の働きを阻害する除草剤です。そして除草剤と酵素の関係は鍵と鍵穴との関係に例えることができます。

鍵穴(酵素)の形(三次元構造)が少しでも変われば鍵(除草剤)は入らなくなり、錠は開きません(酵素活性は阻害されず、除草効果が発現しない)。あるいは一個の鍵穴に一個の鍵が対応すると仮定すれば、鍵穴がたくさんあれば鍵が足りなくなって開かない錠が出てきます。非感受性作物は形の異なる鍵穴を持っているか、形は同じでもたくさんの鍵穴を持っているかのどちらかになり、これが遺伝子組換え作物の原理です。