問題意識

専門外の私が教育実践というテーマで重い腰を上げようとしたきっかけは実に些細なことの積み重なりであった。

私の学生時代、いくつかの講義で毎回感想文を書いた経験がある。その講義では、次回の講義時に教員からのレスポンスが口頭で伝えられたり、記入した用紙に朱筆コメントつきで返却されたりした。共通して言えるのは、その講義が知的に面白く、積極的に受講していた(書いた感想に対する教員の反応が見たかった)ことであった。

こうした経験から、私は大学教員になった当初から毎回ではないにせよ、講義終わりに記名式の「受講アンケート」を実施していた(記名式にしたのは出席管理のため)。その結果は次回講義時に集計および回答を示したプリントにして配布したが、一向に講義の雰囲気がよくならなかった。どうしたものか、そう思っていたときに気づきのきっかけがあった。

20年近く前から、高校における進路選択イベントの一環で、大学教員を直接招いて大学の講義の雰囲気を体験する「出前講義」が実施されるようになった。私はそこに招かれた際にも時折受講アンケートを行っていたが、とある地方の県立高校では、わずか5分程度で参加者全員がものすごい文章量の感想・質問を書いていた。その高校は県下でも有名な進学校であった。

そこで、出前講義に出向くたびに受講アンケートを実施し、参加者の記述内容・文章量と偏差値を照合してみた。すると、偏差値の高い高校ほどたくさんの文章を書く傾向にあることを発見した。

これに関連して、興味深い先行研究がある。苅谷剛彦たちは、2001年に関西圏の小・中学生2,202名を対象に学力テスト(国語および算数・数学)と生活・学習アンケートを実施した(12)。

その結果の1つは、「調べ学習の時は積極的に参加する」「グループ学習の時はまとめ役になることが多い」といった、ALの実践に重要と思われる児童・生徒の学びの態度に対する回答が成績上(下)位者ほど高(低)く、有意差があることを見出した。

そして、志水宏吉たちは、苅谷たちと同様の調査(関西圏の小・中学生2,828人対象)を2013年に実施した(13)。ここでは従来の学力テストとしての「A問題」に加えて、思考力・判断力・表現力などを測る「B問題」が設定されていた。その主要な結果を紹介すると以下の通りであった。

・前回調査(2001年)に比べて、中学校数学を除いて平均点が上昇した。

・国語、算数・数学ともA問題とB問題の成績に高い相関が観察された。

・授業スタイルの変化について、「宿題が出る授業」「自分で考えたり、調べたりする授業」「自分たちの考えを発表したり、意見を言い合う授業」について、「よくある」と回答した生徒・児童の割合が有意に上昇した。

授業スタイルについて、有意に上昇した項目はいずれもALの実践を想起させる。これを踏まえると、学力(A問題)の回復傾向は思考力・判断力・表現力など(B問題)の獲得によるところが大きい、すなわちALが学力を回復させたと志水たちは評価している。