石段を登るにつれ、逆光に黒々とした山門の開いた口の向こうに、何か燦然と輝くものを見る。一段また一段と近づくにつれ、それが満開の枝垂れ桜とわかってくる。

石段を登り切り山門を潜る。そこは絢爛たる別世界であった。正面の本堂に向かって左手の山裾に並ぶ少年たちの墓からも、この枝垂れ桜はよく見える。これに勝る手向けはないであろう。

続いて城に向かう。それには横たわっている例の一山を越える。だいぶ登った切通しの先でやっと城らしい景観をみることができる。旧二本松城は、現在、県立の公園となっている。園内は桜の木が多く、私が行った時はすでに花びらが地面に散り敷いていたが、桜祭りの最中で、かなりの人出があった。

二本松城には当時から天守閣はなく、藩主が住み、あるいは政事の行われた館も粗末なものであったという。

しかし麓にそれらの建物を置き、戦国時代には340メートルのその頂上に天守閣があったというこの城山は、一山が見事な城をなしている。多くの兵士が障壁を設けてこの山に立て籠もったら、これを半日で落城させることはできなかったであろう。

そんなことを考えながら急斜面を登る。重臣たちの自決の跡を通る。頂上には、天守閣の基台を模して高々と石を積んだ展望台がある。疲れた脚で石段を上がる。と、目の前に、こちらに覆い被さらんばかりの安達太良の峰が現れた。

午後のだいぶ傾いた太陽を背負ったこの高峰と、その手前、私の立つ展望台までの間の深い谷地は、青紫一色に鎮まっていた。

※本記事は、2019年11月刊行の書籍『歴史巡礼』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。