ワイングラスを交わしながら

県西部、西相地区というのだけれど、その高校ラグビーの情勢は、ちょっと複雑だ。

平塚市内の龍城ケ丘と小田原の酒匂(さかわ)商工、この二校には佑子たちの代の葉山高校は苦杯を味わった。何より、二度にわたって花園で全国を制した西湘(せいしょう)工業高校は、圧倒的な存在感を県高校ラグビーにもたらしていた。

ただ、酒匂商工も西湘工も、今はない。県の高校再編で、両校は合併して、現在は県西産業総合高校という学校になり、西湘工を全国一に導いた監督の先生もしばらく前に定年退職を迎えた。

その他にも、部員不足で廃部になった学校もあって、現在の西相地区を構成するラグビー部は、県西産業、龍城ケ丘、大磯東の県立勢と私立の相模学院の四校となっている。秋口の地区大会は、県西産業と相模学院、それに龍城ケ丘と大磯東の合同ティームで行われることになった。

とは言っても、それなりに合同練習を重ねてきたとはいえ、大磯東の一年生たちを動員しなくてはならない合同ティームは、どうしても見劣りする。三ティームでの総当たり戦では、二戦そろって大敗した。

でも、佑子にとって救いになるのは、めげない気持ちを発揮し続ける生徒たちだ。中でも、足立くんは花田先生や山本先輩の信頼を勝ち取って、二試合ともスタンドオフを務めた。もう、半年前のはにかんだ笑顔はどこにもない。

九月の半ば。大磯東高にとっては年度最後の大きな生徒会行事がある。東西対抗戦、と言うのだけれど、大磯にはもう一つ、大磯西高校という学校があり、こちらは有名なリゾート施設を見下ろす丘の上にある。

この二校が、秋の一日を町営の運動公園で、合同で一種の体育祭を催すのだ。一応陸上競技をメインにした施設なので、陸上記録会のような意味合いもあるのだが、両校とも三学年を三つずつのブロックに分けて、合計六ブロックでの対抗戦という体裁を取っている。

総じておとなしめの東高に比べ、西高はサッカーやバスケ、硬式テニスなど、県でも上位に食い込む部活を抱えていて、毎年、勝負にならない、と言われていたらしい。

けれども、異変が起こったのは最後を飾る男子のリレーだった。なぜか赤組が優勝カラーというイメージを、生徒たちは持っている。ブロックのカラーは両校の生徒会役員がくじ引きで決めるのだけれど、今年は東高が、ピンク、緑、黄色という不人気カラーを引いてしまった。

その、ピンク組という軟弱なイメージのブロックに、ラグビー部の一年生が固まって所属していた。

お約束の先生種目のリレーでは、若い女性が少ないせいもあって、佑子は有無を言うこともできずに出場させられたのだったが、同走順の女性走者が軒並みベテランの先生方だったせいもあって、三人も抜いてしまった。そんなつもりはなかったのだけれど、ゴール付近ではラグビー部の一年生が大歓声で迎えてくれた。正直言って、嬉しかったのだけれど。

ラストの男子リレー。珍しく飛び出した東高の緑組が優勢にリレーを引っ張った。西高各カラーのバトンミスもあって、アンカーにバトンが渡ったとき、明らかなリードを取っていたのだ。

やや遅れてバトンを受けたピンク組のアンカーは、前田くんだった。もぎ取るようにバトンを奪った前田くんは、瞬時にトップスピードに乗った。その無表情は揺るぎもせず、緑組のアンカーに迫る。四〇〇メートルを走り切る寸前、とうとう前のランナーをかわしてゴールテープを切った。

「マジ、なごみすげぇ」

いずれにしても、東高がワンツーを決めたわけで、東高サイドが大いに盛り上がったのは言うまでもないが、ゴール直前で前田くんに差された二年生の子は、燃えるような目で前田くんの背中を見つめていた。