ORIONS計画

堀内が計画の内容を話し出した。

「皆さんこんな内容でどう思われますか? 宇宙に行くのはiPS細胞で再生した自分の分身です。宇宙船は私が設計しその船で何万年もかけて宇宙の涯まで出かけます。行先は星野さんが決め、生命と健康は本多さんが担当し、再生は中本さんが行なう。運航するコンピューターは伊藤さんが担当し、そして資金と全体のマネージメントは織田さんにお願いするで、どうでしょうか?」

会場は静寂に包まれた。桜の花びらが地面に落ちる音が聞こえるほどである。人類が初めて行なうミッションは、こんなパーティーの席で簡単に決められた。

この5人の天才たちは、織田から今日の全快祝いの席に招きを受けたときから、どうもこんな話になるのではないかとうっすら感じてはいたが、計画だけでも5、6年はかかるし、宇宙船を作るのも10年はかかるに決まっている。自分の命のあるうちに行けるとは考えてもいなかった。ここまで進んでしまうとはの思いである。

各人がそれぞれの専門分野の意見を述べたのも、織田の並外れた気遣いが各人を無意識の内に動かしていたのである。

6人の主人、資産家の織田、ロケット研究者の堀内、コンピューター研究者の伊藤、脳外科医の本多、iPS細胞研究者の中本、天文学者の星野、この6人の天才が一つの席に着き、目指すは宇宙の涯に自分の分身を送り届けるという、何とも壮大なロマンの始まりの瞬間である。

各人が少し詳しく話しだした。

その内容をかいつまんでみると、中本が、「人間が1人分丸ごと入っているiPS細胞カプセルを1人あたり200個用意します。そして100年に一度ずつそれを200回再生してたどり着く」ことを披露する。

星野は「宇宙に出かけるならアルタカ星しかない、僕はそこに移住したい」と言い、更に星野は続けて「僕は恋人を見るように毎日アルタカ星を見ている。そしてこの星が、毎日僕にお会いしたい、早く出かけてくださいとウインクするんですよ。織田さんも一度僕の天文台に見に来てください」と、言いながらスマホの画面を見せた。

「これですよ、ウインクしているでしょ」

織田は、星野の差し出すスマホの画面を覗き込んだ。そこには夜空に輝く星の動画が映し出されているが、織田にはどれがどの星だか全くわからない。

「星野さん、私にはどの星だかよくわからないのですが」

「そうですか、これ、これです。このまばたいている星です」と、星野は指で指し示すのだが、やはり織田は何のことか、でもそれでは熱心に説明する星野に申し訳ないと思い、わかったふりをしながら、「あ─、この小さいチカチカしているのですね」と、相槌を打った。

星野は嬉しそうに、まるで恋人が褒められたかのように、「そうでしょぉ、これですよ。私はできることなら会いに行きたいと思っているんですよ」とほほ笑む。