8.まとめ

ここまでのまとめでは臨床効果が同等らしいガランタミンとリバスチグミンで、なぜガランタミンに重大な副作用の数が多いのかは分かりません。そこで次のように考えてみるのも一つの理解方法かと思い、紹介してみましょう。

それには各薬剤の血中での薬物動態を追うという手段を用います。利用するのはドネペジルを含む抗コリンエステラーゼ阻害薬の体内動態パラメーターの血中濃度半減期になります。添付文書から、

ドネペジルの半減期:約90時間

ガランタミンの半減期:約9時間

リバスチグミンの半減期:約3時間(貼付剤を剝がした後の半減期)

図34では、Qflexという血中濃度シミュレーションソフトを利用して血中濃度の推移を数日間追跡してみます(ただし、リバスチグミンのみ添付文書のグラフ)。

図34

❶定常状態の有(第1章参照)

(1)ドネペジル:1日1回(24時間ごと)24÷90≒0.3<3⇒定常状態あり(17日後)

(2)ガランタミン:1日2回(12時間ごと)12÷9≒1.3<3⇒定常状態あり(1.7日後)

(3)リバスチグミン:1日1回⇒徐放型貼付剤で緩やかなピークあるも1日中ほぼ一定の血中濃度

❷副作用の強さと血中濃度の関係とは

(1)ドネペジル血中濃度は徐々に上がっていき、定常状態に達すると血中濃度の振れ幅の少ない上下動を繰り返しているのが分かります(図中の両矢印)。低い血中濃度になるときがなく高い血中濃度に絶えずさらされているとみなせます。

(2)ガランタミン定常状態は存在していますが、血中濃度の振れ幅が大きくなっています。その分、1日の中で低い血中濃度の時間帯が存在していることになります。血中濃度の低い時間帯の存在が副作用の少なさに関わっている可能性があります。臨床効果は、一定の平均的な血中濃度が保たれていれば中等度までの適応に十分耐えられる薬剤であるともいえます。

(3)リバスチグミン定常状態の存在というよりも貼付剤から徐々に放出される薬剤が血中に移行するため、一日中ほぼ一定の血中濃度を保つと考えてよい薬剤です。

つまり低い血中濃度になる時間帯がないという意味ではドネペジルと同じで、ガランタミンと比べると副作用も多くなってしまうのではないでしょうか。かといってドネペジルより元々の臨床効果が弱いので、適応は中等度までにとどまっている薬剤といえそうです。

ガランタミンと比べて副作用が多いのは、血中濃度の動態の違いにも原因がありそうです(グラフ中の●は9mg製剤、○は18mg製剤投与時)。

④まとめ

認知症の薬も重大な副作用と薬物動態を組み合わせると、その薬の特徴が見えてきたのではないかと思います。ただ日常の業務の中で比較検討して評価できるかというとなかなかできないのが現状ではないでしょうか。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『知って納得! 薬のおはなし』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。