ワイングラスを交わしながら

デザートは、大磯東高の近くの三日月っていうパウンドケーキ屋さんで用意してきた。姉妹お二人で手作りしている、やさしい味のお菓子なのだ。佑子は焼き上がった端っこの、焼き締まりのある部分を偏愛している。恵さんは、ふむふむと頷きながら味わっている。素直に美味しいって言わないあたりが恵さんなのだけれど。

流しの片づけをざっと済ませた佑子が戻ると、ようやくワイングラスを手にしたバルちゃんが、恵さんと一緒にゆらゆらしている。空になったワインのボトルが二本。三本目っていうのは、ちょっと。カッコつけてるけど、恵さんはそんなにアルコールに強くない。

逆に、一緒にお酒を飲んだことも少なくないけれど、佑子はバルちゃんが酔ったところを見たことがない。普段より饒舌になって、言葉の語尾が少しだらしない感じになるだけだ。

「お肉使わなかったの、基さんにはモノ足りなかったかもぉ、ですよねぇ」

少しうるんだ目つきで、バルちゃんは佑子の方を見る。恵さんは本棚に背中を預けて、うっとりした顔で口を閉ざした。

「美味しかったし、お肉がないっていっても、十分すぎるほどだよ。バルちゃん、すごいな、やっぱり」

「チキンとか、ステーキとかも考えたんですよぉ。でもね、ステーキって、何だか男の子じゃないですかぁ」

この場にいるオトコノコである基とヒロさんは、まだ庭を眺めながら泡盛のオンザロックをやり取りしている。あの二人が話しているのは、どうせ古いジャズやロックのことだ。

「やっぱりまだ、考えちゃうんだね」

「ヒトを好きになっちゃいけない、楽しんじゃいけない、自分のことを優先しちゃいけない。あはぁ。そんなのつまんないじゃない、って、理屈はね、んふぅ」

バルちゃんは、グラスのワインをすうっと口に入れる。少しだけ上げたあごから喉のラインが、何だか眩しい。

「沙織みたいにシンプルに考えればいいんだって、やっと気づいたのが高校生の頃。でもやっぱり、引きずっちゃうんですよねぇ」

つるんとした丸い頬が、うっすらと赤みを帯びている。そのバルちゃんの横顔がとても綺麗だと、佑子は思うのだ。